風刺コメディー『ここぼく』は現実と地続きの物語 日本社会の問題と“好感度”の関係とは?

風刺コメディー『ここぼく』は現実と地続きの物語 日本社会の問題と“好感度”の関係とは?

 松坂桃李主演ドラマ『今ここにある危機とぼくの好感度について』(NHK総合)は、「ここぼく」というファニーな通称とは裏腹に、とても歯ごたえのあるドラマだ。不正を隠蔽しようとしたり、不都合なことはひたすら無視しようとしたりする人たちのどうしようもなさを苦笑いしているうちに、いつの間にか真綿で首を締められているような息苦しさを感じるようになる。脚本はNHK連続テレビ小説『カーネーション』や『ワンダーウォール』(NHK総合)などの渡辺あや。

 公式サイトには「このドラマは、長い伝統を誇る名門『帝都大学』を社会の縮図として、私たちが直面しているさまざまな問題を描く風刺コメディーです」と記されている。「風刺」とは、辞書をひけば「社会や人物の欠点や罪悪を遠回しに批判すること」(デジタル大辞泉)とある。風刺の主な対象は、庶民が不平不満を抱く権力者や社会制度であり、ユーモアや皮肉をきかせた表現が多い。

 かつては新聞紙上によく「風刺画」や「風刺のきいた4コマ漫画」が掲載されていたが、権力者の欠点や罪悪を批判することが忌避され(その分、芸能人や一般人への誹謗中傷が増えた)、新聞というメディアそのものが衰退しつつある日本においては、ほとんど絶滅寸前である。

 『ここぼく』は架空の大学を舞台にしたフィクションだが、「風刺コメディー」を標榜する以上、現代の日本社会と地続きの作品だということになる。だから、この作品に関して何かを言うとき、「フィクションと現実を区別しろ」という批判はあたらない。

「忖度」と「隠蔽」だらけの国

 では、『ここぼく』が現実とどうつながっているかを簡単に見ていこう。

 主人公は名門国立大学の広報に転職した元アナウンサーの神崎真(松坂桃李)。アナウンサーの頃から好感度が高かった彼の話は、意味もなければ、具体性もない。そもそも伝えたいことがない。それが好感度の秘訣である。

 学生時代の恩師、三芳総長(松重豊)が総長を務める帝都大学は、財政難の真っ只中。授業料の値上げを画策するが、広報課長の石田(渡辺いっけい)が考えた値上げの理由は「地球温暖化対策と被災地の復興」。大学の授業料と何も関係ないのは明らかであり、いつも正論を言う教授の室田(高橋和也)が批判するが、特に議論が盛り上がることもなく可決される。

 ちょっとだけ正論による批判が盛り上がるが、やがてうやむやになって物事が決まっていくのは現在の日本と同じ。そういえば、東京五輪は以前「復興五輪」と呼ばれていたが、最近は「コロナに打ち勝った証しの五輪」に変わったようだ。口実は何でもいいのだろう。

 真の着任早々、帝都大学にスター教授の岸谷(辰巳琢郎)のデータ隠蔽問題が持ち上がる。ポスドクの木島みのり(鈴木杏)による内部告発で発覚したもので、不祥事が発覚すれば大スキャンダルになり、国から支給される莫大な研究費も失う。全員、中高年の男性(國村隼、岩松了、古舘寛治、温水洋一、斉木しげる、坂西良太)で構成される理事会は、忖度まみれのザ・男社会。「ガセじゃなきゃ困る」「少なくとも改ざんではなくミスだった」と速やかに結論づけ、木島みのりの口封じを真に「相談」する。

 ここでの「相談」とは、「彼女を何とか取り込んで丸め込み、厄介な火種を消してくれたまえ」という意味だ。忖度して素早く意味を汲み取る真もザ・男社会の一員であり、本人は無自覚だが、みのりが言うところの「権力」側の人間である。

 「忖度」という言葉が脚光を浴びたのは、2017年に森友学園・加計学園問題が浮上したときのこと。政治家の要求に対して役人たちが便宜を図る際、さまざまな忖度があったのではないかと指摘された。この頃から公文書の改ざんも問題になっている。忖度は隠蔽とセットであり、政治の世界をはじめ、日本社会のあちこちに蔓延る問題である。

 岸谷も研究室でデータを改ざんするときは「上手く整えておいて」と忖度を求めていた。みのりと大学新聞による告発が世に出た後は、「整えて」は「デスクの上などを整理してください」という意味だとする「言葉の読み替え」を試みている。さらにそれを告発した大学新聞の見出しは「岸谷研が『閣議決定』!?」だった。

 室田教授が「今流行りの権力者による言葉の拡大解釈や読み替え」と叫んだとおり、政治の世界でこのようなことは数年前から頻繁に行われている。大きな話題になった検察庁法改正案では法律の解釈変更がひそやかに行われたし、「桜を見る会」をめぐっては安倍晋三前首相の「私は募っているけど募集はしていない」という支離滅裂な言い換えもあった。麻生太郎財務相が公文書改ざんについて「書き換えだけど改ざんじゃない」と言い換えたこともある。「読み替え」や「言い換え」を通すために「閣議決定」を行うこともたびたびあった。

「あまりにいびつに歪んでしまって、もう絶対このままじゃダメだってみんなわかってる。だけど、誰も止められない」

 みのりが告発したのは科学研究の世界の不正だが、彼女の言葉は日本のいろいろな問題にあてはまる。結局、理事会による隠蔽は成功し、正論を訴えたみのりは学問の世界から離れることになった。広報課長の石田が言うように、「セイロン・ダメ・ゼッタイ」なのである。

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