テラシマユウカの「映画の話しかしてなかった」
テラシマユウカ×今泉力哉、『街の上で』を語り合う “観客に身近な映画”がもたらす安心感
映画を愛してやまないPARADISES(パラダイセズ)のテラシマユウカの連載企画「映画の話しかしてなかった」。本企画では、大の映画好きを公言してやまないテラシマユウカが、毎回ゲストを招いて、ただただ映画について語り合う。
第3回目となる今回のゲストは、映画『街の上で』が公開中の今泉力哉監督。今泉監督独自の映画観から、主演・若葉竜也抜擢の経緯、これまでのキャリアについて語り合った。
今泉力哉「観客の隣に住んでいそうな人を描く」
ーーテラシマさんは『街の上で』をどうご覧になりましたか?
テラシマユウカ(以下、テラシマ):電車で自分の隣に座っていそうな、そんな身近な人の生活をのぞき見している感覚がありました。一人ひとりの登場人物全員にちょっとずつダメなところがあって、それが自分としてはすごく安心するというか(笑)。観ていていい意味でドキドキしない映画だと思いました。
今泉力哉(以下、今泉):そうですね、ドキドキはないです。観客の隣に住んでいそうな人を描くというのはずっと意識していることですね。セリフも、映画の中でしか出てこないような言葉はなるべく書かないようにしたり。
テラシマ:クスッと笑えるセリフもありますし、ちょっとした“間”がすごくおもしろかったです。本作を作るきっかけはなんだったんですか?
今泉:『街の上で』は「下北沢映画祭」という映画祭からの、下北沢を舞台に作品を作ってほしいという依頼がきっかけですね。最初はジム・ジャームッシュの『コーヒー&シガレッツ』のようなーー喫茶店とかでただただ人が会話しているのを撮っている映画なんですけどーー作品だったら、下北沢にはたくさんお店があるし、できるかもしれないという着想がありました。あと、アキ・カウリスマキという監督がいるんですが、その人の映画は、恋愛経験の少ない男の人が変わった女性に惹かれ利用されて、悲しい目に遭う映画とか、寡黙で木訥な主人公が不幸になる映画が多くて(笑)。その2つの映画のイメージがありました。そのアイデアが、若葉竜也さん演じる“巻き込まれ型の主人公”がいろいろな人にただ会うという構成につながりました。
テラシマ:私も下北沢でぶらぶらすることがあるからか、「ここ通ったことある!」と気づく風景もたくさん出てきました。そういう部分も安心感につながっていたのかもしれない。
今泉:この店からこの店に行くとか、この駅からあの道に出るとか、そういう導線ってあるじゃないですか? そういう細かい部分は嘘をつかずにやろうと思っていました。下北沢は行ったことがある人も多い街だろうし。
テラシマ:劇場のザ・スズナリからの帰り道もすごく印象的でした。下北沢のそれぞれの場所でそれぞれ異なる印象が残った気がします。