『青天を衝け』のマニアックな題材に対しての工夫 『あさが来た』のヒットに続くか?

『青天を衝け』マニアックな題材への工夫

 2010年の『龍馬伝』以降、大河ドラマは、映像表現は先鋭化して物語が複雑化したことで、一部では高い評価を得ていた。しかし、昔ながらの大河ドラマを愛好する視聴者との間に齟齬が生じ、朝ドラと比べて視聴率の面では苦戦していた。しかし、2016年の『真田丸』あたりから、作り手と視聴者の溝が少しずつ埋まってきており、昨年の『麒麟がくる』は、絶妙のバランスに仕上がっていた。

 今回の『青天を衝け』は、始まる前は実業家の渋沢栄一が主人公ということもあり、マニアックになりすぎないかと懸念したが、だからこそ、視聴者を振り落とさないよう、わかりやすく丁寧に物語を見せようとしている。

 それがもっとも現れているのが、物語の歴史的バックボーンを解説する徳川家康(北大路欣也)の存在だ。

 「こんばんは徳川家康です」の一言ではじまる家康の歴史語りは、SNS等ではユーチューバー徳川家康などと言われているが、家康が徳川家の成り立ちや士農工商といった江戸時代の歴史的背景を解説するというアクロバティックな演出は、NHKの『歴史秘話ヒストリア』や『タイムスクープハンター』等の歴史バラエティのノリで、より遡るとフジテレビで80年代末に放送されていた深夜番組『カノッサの屈辱』のような、教養バラエティのノリを思い出させる。

 同時に感心するのが、家康の背後に掲げられる年表や各登場人物の肖像画で、黒子が踊りを舞いながらふすまや屏風のように背後の絵を入れ替えていく様子はとても優雅で、ギリギリのところで下品にならないように工夫されている。

 物語を語る上で、どこまで説明するかというのは悩ましい問題だ。

 何でもかんでも台詞で解説されるのは世界観のぶち壊しで見ていて興ざめだが、かといって映像で全てを語る映画的演出が続くのは、テレビを観ている視聴者にとって負荷が強すぎる。特に歴史劇の場合、知らないことが多すぎると物語に入り込めない。

 そんな中、『青天を衝け』は解説そのものをエンタメ化して見せることに成功している。この演出は今後、幕末から明治となり、視聴者が馴染みの薄い世界になるほど、威力を発揮するだろう。 

 渋沢栄一が歴史の表舞台に立ち、物語が本格的に動き出すのはまだ先のようだが、序盤の見せ方においては順調なスタートを切ったと言えよう。

※宮崎あおいの「崎」は「たつさき」が正式表記。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
大河ドラマ『青天を衝け』
NHK総合にて、毎週日曜20:00~放送
BSプレミアムにて、毎週日曜18:00~放送
BS4Kにて、毎週日曜9:00~放送
出演:吉沢亮、小林薫、和久井映見、村川絵梨、藤野涼子、高良健吾、成海璃子、田辺誠一、満島真之介、岡田健史、橋本愛、平泉成、朝加真由美、竹中直人、渡辺いっけい、津田寛治、草なぎ剛、堤真一、木村佳乃、平田満、玉木宏ほか
作:大森美香
制作統括:菓子浩、福岡利武
演出:黒崎博、村橋直樹、渡辺哲也、田中健二
音楽:佐藤直紀
プロデューサー:板垣麻衣子
広報プロデューサー:藤原敬久
写真提供=NHK

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