『ボス恋』最終回が描いた“本当に大事なもの” 奈未と潤之介だからこそ見つけられた愛の形
そして、備品管理部に異動した麗子を『MIYAVI』編集長としてカムバックさせたのも最終的には奈未の一押しだった。何度突き返されても新生『MIYAVI』の原稿を麗子に届け、「編集長に教えてもらったことを全部込めました。どうしても読んでもらいたいんです」と半ば強引に押し切って渡し返す。
その原稿を読みながら、麗子がパリ留学に旅立つ前の心許ない過去の自分に出会うシーンは涙なしには観られなかった。誰にだって、一度や二度、過去の自分を自分自身で抱きしめたくなる時があるし、また過去の踏ん張っていた自分に今の自分が励まされることもあるだろう。奈未と麗子はタイプは違うだろうが、荒削りでとにかく体当たりな奈未の姿を見ていると、麗子も過去の自分自身に重ね合わせるところがあるのかもしれない。そしてこの時の麗子の頑張りは当然「無駄」にはならなかったし、当時の麗子の決断が、時を経て今の潤之介の選択を父親に受け入れさせる背中を押したとも言える。
しかし、麗子の進路は意外だった。音羽堂出版を辞め、実家の宝来グループを継ぐのかと思いきや、「もっと自由に雑誌を作りたい」と、やはり自分の原点に立ち返り貫くことを選んだ。
前話では奈未も潤之介も「結婚か仕事か」の二択に翻弄されていたのに、そこからかなりスケールアップして、結局誰も実家にも何にも縛られず自由に自身の進路を選び取ることができるハッピーエンドとなった。
潤之介はカンボジアのNGOの広報カメラマンとして活動しながら写真の道に進むことを決め、これまでずっと頭の中にあった家業のことから一気に解き放たれる振り切れっぷり。ただ今回、潤之介が再発見したのは自分の写真が好きだという想いや諦め切れない夢だけではなく、奈未への変わらぬ想いだった。
帰国するまで待っていてほしいと奈未に伝え、もちろん奈未もそれを喜んで受け入れる。出会ったばかりの頃の奈未のように、片方だけが重くもたれかかってしまうような恋愛であればなかなか成立し得なかっただろう2人の新しい関係性だ。個々に自立し、しっかりと一人ずつでも立つことができる2人だからこそ選び取れた愛の形だっただろう。
さらにもはや“腐れ縁”“因縁”とでも言うべきか、3年半過ごした『MIYAVI』編集部を去った奈未がジョインしたのは、麗子がいる新しい出版社。かつその出版社を率いていたのは宇賀神(ユースケ・サンタマリア)だった。
「“普通”って気づけばそこにあるし、追いかければ遠く逃げていく。いつか笑いたいと夢を見て、今は夢を見ることで笑ってる」
これはただひたすらに不甲斐なくいたたまれない自分の現在地(痕跡)から逃げずに、何度か選択を誤ったり遠回りしながら、それでも夢に蓋をしてしまわず一生懸命ぶつかり突き進んだ現在地の先に待ち受けている「自分が選んだ自分だけの道」そのものなのだろう。
■佳香(かこ)
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter
■放送情報
火曜ドラマ『オー!マイ・ボス!恋は別冊で』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:上白石萌音、菜々緒、玉森裕太、間宮祥太朗、久保田紗友、亜生(ミキ)、秋山ゆずき、太田夢莉、高橋メアリージュン、なだぎ武、高橋ひとみ、倉科カナ、ユースケ・サンタマリア
脚本:田辺茂範
演出:田中健太、石井康晴、山本剛義
プロデューサー:松本明子
編成:宮崎真佐子
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS