『監察医 朝顔』運命的なタイミングを感じる第17話 積み重なった震災から10年間の思い

『監察医 朝顔』が描く10年間の思い

 東日本大震災から10年を前に、各局では例年に増して特集番組が放送されている。

 『監察医 朝顔』(フジテレビ系)は、震災で被災した朝顔(上野樹里)の母・里子(石田ひかり)の死と向き合っていく物語。原作では阪神・淡路大震災で亡くなった設定だが、ドラマ化に当たって東日本大震災へと置き換えられている。

 2019年夏に放送された第1シーズン、2020年秋から2021年冬クールの第2シーズンとオンエアされてきたが、実は第2シーズンは昨年の夏から秋のクールでの予定だった。新型コロナウイルスの影響だ。こうして3月11日を前に『朝顔』が放送されるのは、ある種、運命めいたものを感じさせる。

 第17話は、里子の骨が遠く離れた青森の地で見つかる、まさにこのタイミングでという内容だ。青森県警から電話で知らせを聞く朝顔。受話器の音声にだんだんと強いエコーがかかっていく演出は、嬉しさよりも信じられなさからくる動揺を強く印象づける。

 青森に向かう高速バスの中でも朝顔と平(時任三郎)はいつも通り。桐の箱に入った里子の遺骨を受け取り、平は両手で胸に抱きながらようやくむせび泣く。週末は神奈川と東北を行き来し、刑事を辞めた後も仙ノ浦に移り住み里子を捜していた平。しんしんと降りしきる雪は、10年間で積み重なった妻への思いを表しているかのようだ。

 『朝顔』ではこれまで震災があった街を架空の「仙ノ浦」と称して、あまり街並みや津波を思い起こさせる建物を映してこなかった。しかし、この第17話では震災遺構のシンボルである奇跡の一本松や岩手県陸前高田市の整備された街並みが意図的に映し出される。

 「津波浸水区間」の道路標識。アパート5階のベランダに表示された「T.P. 14.5m」のレッドライン。それぞれ一瞬のインサートであるが、この10年で進んだ街の復興と今も生々しく横たわる津波による爪痕を伝えようとする『朝顔』チームの思いが滲む。先日、宮城県東松島市で見つかった遺体の身元が、震災で行方不明となっていた女性だったというニュースがあった。宮城県警のまとめでは、県内でいまも1215人の行方が分からないままだという。朝顔たちと同じく、家族の帰りを待ち続けている人たちがいることを改めて忘れてはならない。

 ようやく里子と会うことができた浩之(柄本明)の表情にも心を掴まれるものがあった。「お前、青森にいたのか。ずいぶん遠いところまで行ったなぁ」と白く綺麗な指の骨を手に取る浩之。危篤状態から意識を取り戻したタイミングで遺骨が見つかったのは、朝顔の言う通り、里子の思いを感じずにはいられない。朝顔と平が里子と3人で神奈川の家に帰った頃、浩之は静かに息を引き取る。そこに現れる里子らしき手。浩之の瞳からつーっとこぼれ落ちる涙。娘に看取られながら最期を迎えられた浩之はきっと幸せだったことだろう。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる