“『まどマギ』の再来”の声も 『ワンダーエッグ・プライオリティ』に漂う野島伸司“らしさ”

 一方でアクションシーン以外の日常シーンも見どころは多数。たとえばアイの友人となる飲み屋の娘・川井リカは男にだらしない母親を憎らしく思っていた。しかし自身も母親的なポジションになったことをきっかけに、執筆時点での最新話となる7話のクライマックスでは母親の心情を少し理解する。そのくだりで実家の客席で酔っている母親とリカが会話するのだが、カウンターで仕切られた構図によって両者の断絶を示しつつ、リカをカウンター内に配置することで働く側=大人の世界に踏み込んだことが表現されている。映像作品では定番ではあるが、『ワンエグ』では随所でこうした演出を見られる。丁寧さも備えた最高品質の映像で野島伸司お得意のキャッチーな物語を楽しめる、というのが『ワンエグ』の現時点での評価だろうか。

 そんな本作について、放送開始当初を中心に「『魔法少女まどか☆マギカ』を思い出す」という声がSNSで散見された。少女が謎の存在(『ワンエグ』ではアカと裏アカ、『まどマギ』ではキュゥべえ)に誘われサイケデリックな異世界に行き、自身の願いを叶えるために戦うという物語の基本構造は確かに似ている。また、どことなく漂う不穏さも大きな共通点だろう。

 ただし『ワンエグ』は折り返し地点を過ぎたところで、先述したリカのようにメインキャラクターの少女たちに残された問題の処理が始まった。つまり彼女たちは『まどマギ』の魔法少女たちのような不幸は訪れなさそうなのだ。しかし物語を作っているのは何を繰り出してくるかわからない稀代の脚本家。小糸の死やエッグに関する謎、そしてアイの決意の行く末といった要素がどのように展開されていくか。野島伸司というフックによって倍増された「何が起こるかわからない」というオリジナルアニメの醍醐味を引き続き味わおう。

■はるのおと
アニメやマンガ、ゲーム、デジタルガジェットに関するライター・編集。週に65本くらいTVアニメを楽しみながら、たまにテキストを書いています。Twitter

■放送情報
『ワンダーエッグ・プライオリティ』
日本テレビほかにて、毎週火曜深夜放送
原案・脚本:野島伸司
監督:若林信
キャラクターデザイン・総作画監督:高橋沙妃
企画プロデュース:植野浩之(日本テレビ)、中山信宏(アニプレックス)
制作:CloverWorks
(c)WEP PROJECT
公式サイト:https://wonder-egg-priority.com/
公式Twitter:WEP_anime(https://twitter.com/wep_anime)

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