芳根京子の狂気が突きつける“痛み” いま向き合うべき『ファーストラヴ』のテーマ

『ファーストラヴ』が突きつける“痛み”

 普段は気丈に振る舞っているものの、環菜の人生に触れ、過去に関係がある夫の弟・迦葉からの何気ない言葉でそのトラウマが呼び起こされる。それでもどこか自分に似たところがある環菜のため、そして幼い頃の自分のために痛みを堪えながら真実に迫っていく由紀。足元もおぼつかない彼女を見ていると、こちらまで劇場から逃げ出したいほどの苦しさを感じる。そんな時に足元を照らす光となってくれるのが、優しく由紀を見守り続けた夫の我聞と、不器用ながら彼女を大切に思う迦葉だ。

 本作では少しずつ由紀と環菜が抱える心の傷がリンクしていくが、2人には明確に違うとことがある。それは自分を無条件で受け入れてくれる存在がいるか、いないかだ。由紀や自身もトラウマを抱える迦葉にはともに我聞という、自分を大切にしてくれる存在がいた。だからこそ、2人は誰かを“守る側”になったのだと思う。

 そして、その道の延長線上に出会ったのが世界に絶望し続けた環菜だった。環菜は両親はおろか、恋人や好きになった人の誰からも本当の“愛”を受け取ることができず、自分の腕に刻み込んだ傷だけが彼女の苦しみ寄り添った。環菜にとって、自傷行為は傷を塞ぐための自己治癒だったのだろう。誰もその苦しみを理解することはできないが、彼女の絶望は多くの女性が経験したことのある、けれど「仕方がない」と目を反らしてきた現実。環菜の母・昭菜(木村佳乃)や由紀の母・早苗(高岡早紀)も本当は誰よりも娘の痛みを知りながら、自分の古傷が化膿しないように蓋を閉めた。

 『ファーストラヴ』は問答無用で女性たちの傷をひらき、その痛みを男性たちに突きつける作品だ。環菜に初めて自分を大切に思ってくれる存在が現れる時、その傷はゆっくりと癒され、鑑賞後はどっしりと、これからの社会を作っていく責任がのしかかる。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。

■公開情報
『ファーストラヴ』
全国公開中
主演:北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、板尾創路、石田法嗣、清原翔、高岡早紀、木村佳乃
監督:堤幸彦
脚本:浅野妙子
原作:島本理生『ファーストラヴ』(文春文庫刊)
音楽:Antongiulio Frulio
主題歌・挿入歌:Uru「ファーストラヴ」「無機質」(ソニー・ミュージックレーベルズ)
配給:KADOKAWA
制作:角川大映スタジオ/オフィスクレッシェンド
製作:『ファーストラヴ』製作委員会
(c)2021『ファーストラヴ』製作委員会
公式サイト:firstlove-movie.jp

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