エリサ・ラム事件の真相に迫る いまこそ観るべき『事件現場から:セシルホテル失踪事件』

エリサ・ラム事件の真相に迫る記録映画を観る

 本シリーズ『事件現場から:セシルホテル失踪事件』は、ここで述べた事件の経緯と、一時は複数の連続殺人犯の棲家となっていたというセシルホテルの歴史、推理好きの一般人たちがネット上で述べる様々な事件の考察、浮かび上がる容疑者、そして最終的に警察が解明した事件の真相までが映し出される。

 議論がヒートアップした理由の一つには、事件の状況と様々なものとの“奇妙な一致”が見られたからだという。本シリーズでは、例えばホラー映画『ダーク・ウォーター』(2005年)のストーリーと事件の流れが怖いほど似ていると主張する人物が登場する。この映画は、小説『リング』の鈴木光司の短編集にある物語を基に、映画『リング』の中田秀夫監督が監督した、日本のホラー映画『仄暗い水の底から』(2002年)のアメリカでのリメイク作品である。エレベーター映像の不気味さが影響したのか、インターネットではこのようにオカルトめいた議論も活発に交わされた。

 同時に本シリーズが述べているのは、現実離れした噂や推理、オカルト話などが、ネットで加熱する状況が生まれてしまった事実だ。「この事件には国家規模の陰謀が絡んでいる」などという意見がまことしやかにささやかれ、犯罪に関わっていない人間を真贋不明の情報で叩き嫌がらせをするなど、陰謀論や悪質なデマが蔓延する事態も生まれたのだ。

 人々が意見を述べ、近い考えの者が同意し合い、推測に「こうあってほしい」という願望が入り混じることで、ある事柄はいつしか荒唐無稽なものになってしまうことがある。これがただ過去の過ちだと看過できないのは、いまもアメリカや日本など世界中で、荒唐無稽な主張をたれ流す者や、それを信じてしまう人々が後を絶たないからである。

 セシルホテルの事件は解決を迎えたが、カルト的な妄想で様々な被害が生まれるという問題は、いままさにわれわれが直面しているものである。エリサ・ラム事件の真相も興味深いが、様々な人々による妄想が育っていく様子が、順を追って示されるという意味でも、本シリーズは、いまこそ観られるべき“現在のドキュメンタリー”になっているといえるだろう。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■配信情報
『事件現場から:セシルホテル失踪事件』
Netflixにて配信中

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