"なりたい自分"になることに共感し、心揺さぶられる『MISS ミス・フランスになりたい!』

ミス・フランスを目指す青年の姿から学ぶこと

 美貌や個性を競い合い、フランス各地の大会で勝ち上がった女性たちが、さらにフランス全土の頂点を目指す「ミス・フランス」。1920年から続いている、多くの人々の羨望を集めるミス・コンテストである。そんな大会で、男性であることを隠して審査を受け、自分自身であることを取り戻そうとする青年の奮闘を描く映画が、本作『MISS ミス・フランスになりたい!』だ。

 近年の映画では、多様性をめぐる内容の作品が数多く製作されているが、本作が際立って個性的なのは、ミス・コンテストという、「女性らしい美しさ」を評価する場を舞台としているという点。にもかかわらず本作は、進歩的なメッセージを発信すると同時に、多くの観客がそれを自分自身の話として、心が動かされたり共感できるところが興味深いのだ。ここでは、本作の競技映画としての面白さや、ミス・コンテストの枠を越えて、多くの人々が本作から勇気や共感を与えられる理由を、できる限り深く考えていきたい。

 本作の主人公アレックスを演じるのは、フランスで「ジェンダーレスモデル」として活躍する、スレンダーな体型と中性的な顔立ちが特徴のアレクサンドル・ヴェテール。ジェンダーレスモデルとは、性別の垣根を飛び越えた装いやメイクアップのできるファッションモデルのことで、なかにはレディースの服もメンズの服も両方着こなすことができる者もいる。アレクサンドルもその一人である。

 近年では、『ジャスティス・リーグ』 シリーズや、『ファンタスティック・ビースト』シリーズに出演するアメリカの俳優エズラ・ミラーも、ときに公の場で女性もののコートを羽織ってメンズの服装に合わせたり、ガーターベルトを履いた脚を見せるなど、ジェンダーの枠にこだわらないファッションで耳目を集めている。その裏には、趣向や自分らしさの追求とともに、「男らしさ」、「女らしさ」という従来の固定観念から解放されたいという想いもあるはずだ。

 本作の冒頭のシーンは、学校で将来の夢を語るという課題のスピーチの様子が映し出される。これまで両親から「何にでもなれる」と勇気づけられてきたアレックスは、想いのままに「ミス・フランスになりたい!」と発言し、同級生たちから大いに笑われてしまう。性別の垣根を越えた夢を持ったり、男性が女性、もしくは女性が男性のように振る舞うと、世間から奇異な目で見られる場合があることを、そのときアレックスは知るのである。

 成長し、青年になったアレックスは、幼なじみの男性エリアス(クエンティン・フォーレ)と偶然に再会する。エリアスは、子ども時代の夢を叶え、尊敬を集めるボクシング選手になっていた。そんな彼の輝く姿に目を奪われ、自分が子どもの頃に夢見ていたミス・フランスをふたたび目指すことを決意する。

 アレックスを支えるのは、同じ下宿に住む面々。移民やトランスジェンダー、ミスコンに対して一家言持っている大家さんなど、周りにいるのは、孤独を感じていたり社会の片隅に追いやられている人々ばかりだ。キラキラした舞台に立とうとするアレックスの存在は、それぞれの事情で苦労を強いられている下宿の人々の希望ともなっていく。

 全編にわたって目を引くのは、アレクサンドル演じるアレックスの美貌だ。メイク映えする整った顔と、一際目を引く高い身長。地区予選において、他の参加者を圧倒する輝きを放つ。そんな役どころを、説得力を持って無理なく自然に演じられるほど、アレックスからは突出した美しさとオーラが感じられる。そこには、ジェンダーレスモデルであるアレクサンドルならではの美しさが功を奏しているといえよう。

 それでも、ミス・フランスへの道は険しい。本物のミス・フランス実行委員会と提携している本作は、表向きはきらびやで優雅なイメージのミス・フランス大会の裏にある、厳しい面をも描いていく。美しい所作や自信と自覚を身につけるため、指導者のアマンダ(パスカル・アルビロ)が突きつける要求は、精神的にも肉体的にもアレックスたち候補者を追いつめていく。まさにスポ根作品のように、努力の積み重ねとして表現される大会への準備過程が描かれることで、クライマックスに向けドラマを盛り上げるつくりだ。

 下宿の大家ヨランダ(イザベル・ナンティ)は、ミス・フランスという枠組み自体が、時代錯誤的で保守的なものだという意見をアマンダにぶつける。たしかに、そのイメージには否定できない部分もある。だが、アレックスはじめ、候補者たちが美しくあろうとする不断の努力を見ると、そこにスポーツ選手や芸術家に通じる、一つのものを突きつめて極めることの尊さを感じずにはおれないことも確かなのだ。ここで求められる“美しさ”は、表面的な部分ばかりではない。

 アレックスが性別を隠して参加していることから分かるように、あくまでルール上は男性がミス・フランスになることはできない。だが、ライバルであり盟友ともなっていく候補者パカ(ステフィ・セルマ)のように、アフリカにルーツを持つ実在の女性フローラ・コクレル(2014年優勝)がミス・フランスに実際に選ばれるなど、時代とともにミス・コンテストの性質も変化を見せている。美しさだけではなく、環境破壊などの社会問題に関心を持つ姿勢や、自主性を持つことが求められるようになっているのも変化の一つだ。

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