『カムカムエヴリバディ』で“朝ドラ史上最高齢ヒロイン”に 深津絵里の“母親像”への期待

朝ドラ史上最高齢ヒロイン、深津絵里

 そもそも深津はワンレングスが隆盛を極めていたバブルの時代にショートカットをトレードマークにしてデビュー時から、周囲の若手女優とはひと味もふた味も違う雰囲気を醸し出していた。水原里絵名義のデビュー映画『1999年の夏休み』はショートカットを活かした少年役だったし、ドラマデビュー作の『予備校ブギ』(TBS系)では予備校教師の田中美佐子やコンサバティブな女子大生の渡辺満里奈とは対象的なフリーター役だった(ドラマが放送された90年当時、フリーターは時代の先端を走る存在として注目されていた)。初主演映画『(ハル)』はパソコン通信にのめりこむ若者たちを描いたラブストーリーである。

 絶大な人気を誇った『踊る大捜査線』シリーズ(フジテレビ系)では、織田裕二演じる青島俊作のパートナー・恩田すみれを演じて人気女優の座を確たるものとした。真面目で正義感に溢れ、男社会にも臆さず立ち向かう自立した女性でありつつ、かつてストーカーに襲われて心と身体に深い傷を負った過去があるすみれは、まさしく「強さと弱さを抱えた女性」だった。『きらきらひかる』(フジテレビ系)では真摯に仕事に取り組む若き女性監察医を演じてヒットに導いた。本木雅弘主演のドラマ『西遊記』(フジテレビ系)では三蔵法師を演じたが、夏目雅子以外に女性の三蔵法師がぴたりとハマる女優は彼女ぐらいだろう。

 最近作である今年1月6日に放送されたばかりのスペシャルドラマ『最後のオンナ』(テレビ東京系)では、藤山直美、岸部一徳という超ベテランを相手に一歩も引かずにやり合い、あの香川照之の夫を尻に敷く「クソ!」が口ぐせの気の強い妻を演じてみせた。深津絵里もたくましくなったものだ……。

 ところで、深津は長いキャリアの中でこれまで「母親役」をほとんど演じたことがない。映画『博士の愛した公式』のシングルマザーの家政婦役と映画『サバイバルファミリー』の専業主婦役の2度だけである。たしかにCMで演じる夫婦役でも子どもがいる設定には見えなかったりするが、『カムカムエヴリバディ』ではガッツリと母親を演じることになる。どのような母親像を見せてくれるのか楽しみだ。

 透明感、芯の強さ、変わらぬフォルム、新しい女性の生き方を演じるエッジーな部分、強さと弱さの共存、多くの人に愛される大衆性。これらをすべて併せ持つのが深津絵里という女優なのだろう。母親への憎しみを抱えつつ、ジャズというカルチャーに身を投じ、娘とも向き合っていく『カムカムエヴリバディ』のるいという役に実によく似合っている。はたして、どんな朝の顔になってくれるだろうか。

■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
NHK総合にて、2021年秋放送
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史ほか
写真提供=NHK

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