三宅唱が語る、2020年に映画監督として考えていたこと 「映画ならではの力を探りたい」

映画ならではの力を探りたい

【連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜」】予告篇

――直近の予定としては、1月30日から全国18の映画館で開催される連続講座「現代アートハウス入門」にも参加されるとのことですが、それも今の話と関係しているような?

三宅:そう、めちゃくちゃ有意義なイベントに誘ってもらったなと思って、とても嬉しかったです。ビクトル・エリセ監督の映画を選んだんですが、これまでしゃべったことも書いたこともなかったのと、かつ、去年はジョン・フォード監督の映画をまとめて観ていたというのもあって、それを経た今『ミツバチのささやき』を観直したらどんな変化があるだろう、という個人的な興味です。それと、三浦哲哉さんと濱口竜介監督とは定期的に話していたので、ビクトル・エリセの演出についても一緒に話したいな、という思いです。

――なるほど。「去年は、ジョン・フォード監督の映画をまとめて観ていた」というのは?

三宅:ああ、そうですよね。2020年は、3月ぐらいまでは当初の予定通り色々と新作を観ることができて……『リチャード・ジュエル』とか『フォードvsフェラーリ』、あとは『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』とか最高でしたが、春以降はなかなか劇場に足を運べず、Blu-rayを買うようになったんです。『文學界』で蓮實重彦さんの「ジョン・フォード論」の連載がスタートして、それをちゃんと読みたかったこともあり、ソフト化されているものをちょっとずつ買って、観ていました。

――なるほど、そんなことをされていたのですね。

三宅:最初にジョン・フォード監督の『静かなる男』のBlu-rayを買って……2021年に「Blu-rayがすごい!」って、いまさらバカみたいで恥ずかしいんですけど、『静かなる男』のBlu-rayを観たら、これまで自分が廉価版のDVDで観ていたアレは何だったんだっていうぐらい、全然違った(笑)。風に揺れる木の葉だとか、ツイードジャケットの毛羽立ちだとか、35mmの綺麗なプリントだったらもっとすごいんでしょうけど、Blu-rayでも、もう息がつまるくらい美しくて。興奮しながら友達に電話かけて「モーリン・オハラ、めっちゃすごいわ」って(笑)。

――(笑)。

三宅:あとは、ロベール・ブレッソン監督の作品や、DVDですが成瀬巳喜男監督の1930年代のサイレント作などを観ていました。まあ、これは後付けですけど、今とはまったく別の時代、『静かなる男』だったら70年ぐらい前になるのかな、そういう全然違う時間に一旦たっぷり身を浸すことで、自然とちょっと気持ちが落ち着いていたところもあったような気がします。それから、昨日今日のことが、もっと長いスパンの中で見えてくるような感覚もありました。コロナ禍の状況に限らず、社会的な文脈だったり、文化的な流行り廃りだったりっていうものを、もうちょっと長い歴史の中で捉えられるような気がして。まあ、これは勘違いかもしれないですけど、全然時代の違うものを観たり読んだりすることで、2020年においては、僕個人は生きやすくなっていたっていう感じです。

――いちばん最初に話したように、日々更新される情報に右往左往しないためにも。

三宅:そうだと思います。そういう情報に流されずに済むというか。いや、どうやっても流されてはいるんですけど、そうやって違う時代のものに触れていたほうが、ゆっくり考えられるような気がしたんですよね。毎日更新される情報にいちいち怒ったり憂いたりしても、すぐに忘れてしまって。それは虚しいし。喩え話になっちゃいますが、「さざ波」のディテールと同時に、その前後のもっと大きな波、潮の満ち引きを見ないと、いつか溺れちゃうよなっていうのは、思っていたかもしれないです。

――なるほど。

三宅:今日は右だ、次は左だってなるのはしんどいし、何か違うスパンで物事を考えられるほうが……というか、そのために映画とかがあるんだろうなとも思うんですよね。「今ここ」とは全く別の時空をわざわざ作り出そうとしているのが、映画だとか彫刻だとかいろんな芸術の試みだと思います。まだ全然わからないですけど、ちょっとずつでも、映画ならではの力を探りたいな、というつもりでいます。

■イベント情報
連続講座「現代アートハウス入門 ネオクラシックをめぐる七夜」
1月30日(土)〜2月5日(金)連日16:50 開映
ユーロスペース、シネマ・ジャック&ベティ、第七藝術劇場、シネ・ヌーヴォ、元町映画館、京都シネマ、KBC シネマ 1・2

1月30日(土)〜2月5日(金)連日19:00 開映
シネマテークたかさき、フォーラム仙台、長野相生座・長野ロキシー、新潟・市民映画館シネ・ウインド、シネモンド(※2月3日(水)休館)、横川シネマ、シネマルナティック、シネマ 5、Denkikan、桜坂劇場
※トーク、レクチャーは録画したものを上映します。

2月6日(土)〜2月12日(金)連日16:30 開映
名古屋シネマテーク
※トーク、レクチャーは録画したものを上映します。

■配信情報
Netflixオリジナルシリーズ『呪怨:呪いの家』
Netflixにて、全世界独占配信中
監督:三宅唱
出演:荒川良々、黒島結菜、里々佳、長村航希、井之脇海、柄本時生、仙道敦子、倉科カナ
脚本:高橋洋、一瀬隆重
エグゼクティブ・プロデューサー:山口敏功(NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン)、坂本和隆(ネットフリックス)
プロデューサー:一瀬隆重、平田樹彦
音楽:蓜島邦明
作品ページ:www.netflix.com/ju-on_origins

関連記事