TBSスター育成プロジェクトの狙いとは テレビ局主導の“本気のドラマ作り”の一環に?
「演じ手」の発掘・育成は“ドラマのTBS”としての戦略
だが、ここ数年、さらにコロナ禍で様々な問題が加速するように、人気女優・人気アイドルなどをはじめとした芸能人たちの事務所退社(退所)および独立が相次ぎ、芸能プロダクションのパワーダウンが表面化してきている。
その一方で、TBSは女性をターゲットとして恋愛モノを軸にすえた「火曜ドラマ」や、ドラマ好きが注目する実力派脚本家が手掛けることの多い「金曜ドラマ」、男性視聴者も多く取り込む「日曜劇場」と、それぞれの枠の特色・ターゲットを明確に打ち出しながら、“ドラマのTBS”を再び強く印象付けてきた。
プロダクションが主導権を握るキャスティングありきのドラマから、“脚本で見せる”“演出で見せる”ドラマの見方・土壌を地道に計画的に戦略的に開墾してきたのがTBSだという印象がある。その戦略が実に上手くハマっていたように見えたのが、金曜枠で『MIU404』が、日曜枠で『半沢直樹』が確実に得点してくれる安心感に支えられつつ、火曜枠で20代プロデューサー・松本友香氏が企画立ち上げから関わった『私の家政夫ナギサさん』が高評価を得たこと。若手プロデューサーがのびのびと思い切ってチャレンジできる土壌がTBSにはできてきているのだろう。
そうした流れで、次にTBSが手掛けるのは、プロデューサーという若き作り手ではなく、「演じ手」の発掘・育成となるわけだ。
思えばTBSは、有村架純主演の『中学聖日記』で、相手役の二番手として、新人の岡田健史という「原石」を発掘し、磨いた実績もある。そもそも彼が芸能界入りしたのは、初めてスカウトされてから5年越しで口説かれ続けた末のことだったが、この作品の中では、塚原あゆ子監督がまったくの素人だった彼に、マンツーマンで熱心に指導したのだという。
そんな彼を抜擢したことについて、今回の女優発掘・育成プロジェクトの審査員の一人でもあるプロデューサー・新井順子氏は公式サイトでこう語っている。
「私は『中学聖日記』で、有村架純さんの相手役をまだデビューしていない子の中から1年かけて探しました。芸能界に入っていないからこそ持ち合わせている魅力、未知数な可能性にとてもワクワクしました」
この企画の審査員に秋元康が名を連ねていることから、『Nizi Project』 のようなことを女優版でTBSがやりたいのかな、と最初は思った。しかし、改めてここまでの流れを振り返ってみると、芸能プロダクション主導のあり方から改めてテレビ局が主導権を握り返し、「脚本・演出」に主眼を置いた本気のドラマ作りの一環として「新しいスターの育成」が企てられているように思えるのだ。
■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。
■プロジェクト情報
TBSスター育成プロジェクト『私が女優になる日_』
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/watajo_tbs/