『呪術廻戦』『チェンソーマン』 映画好き作者が産むヒット作が提示する“引用”の重要性
多くの作品に触れたからこそ描ける演出、生み出せる“新しいもの”
先述のインタビューにて藤本タツキは、自身の漫画作りにおいて再三“映画をたくさん観ることの重要性”を語っている。そうすることで、物語の展開においても既視感のあるものを避けた、新しいものを生み出すことができると言うのだ。それだけでなく、ビジュアルやシーンの引用も、それらを組み合わせることによって真新しいオリジナルを生み出すことができる。
実はタランティーノもそうだが多くの名監督による名作映画は、それ以前に作られた名作映画を引用したものが多い。あの大ヒットミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』もそうだ。映画作品に限らず、既存の名作からの引用という行為は、その一つの事物を理解するだけでは難しい。その周囲にある歴史を知る行為でもあると私は考える。何か一つの単語に興味を抱いたら、そこから順々に芋づる式で引き上げられるもの。その知識の吸収量が多い作家に引き出しが多いことは、もはや必然なのである。
冒頭で触れたように、『呪術廻戦』も『チェンソーマン』も呪いや悪魔というものと戦う物語、という意味合いでは似たような作品が多い。これまでのジャンプコミック作品の中で、どれだけあっただろう。言ってしまえば、この2作品自体の共通点も多い。しかし、それでもこの2作品が圧倒的に頭ひとつ抜けて人気が高いのは、そういった映画作品を効果的に使ったり、引用したりすることで“ありそうでない”を更新し続けることができる作家性に起因していると考えられる。
そしてもうひとつ、やはり元ネタなどの引用の掘り甲斐がある作品はファンがつきやすい傾向がある。映画でも、王道ではないがカルト的な人気のあるものは大体コアな映画ファンがつきやすいのと同じ。それを読み解く側も、自分の知っている作品の引用に作家に対する信頼と親近感を沸かせ、知らない作品に出会えば新たな知識として学ぶことができる、そんな楽しさが味わえるのだ。日本の漫画に限ったことではない。映画や音楽の分野にも通じる話だが、作り手がどのくらい“知っているか”ということが、その作品の深みと面白さに繋がるということを、改めて知らしめてくれる2作品である。
■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。藤本タツキ先生と生年月日が同じ。Instagram/Twitter
■放送・配信情報
『呪術廻戦』
MBS/TBS系にて、毎週金曜深夜1:25〜放送中
Amazon Prime Video、dTV、Netflix、Paravi、U-NEXTほかにて配信中
原作:『呪術廻戦』芥見下々(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:朴性厚
シリーズ構成・脚本:瀬古浩司
キャラクターデザイン:平松禎史
副監督:梅本唯
美術監督:金廷連
色彩設計:鎌田千賀子
CGIプロデューサー:淡輪雄介
3DCGディレクター:兼田美希、木村謙太郎
撮影監督:伊藤哲平
編集:柳圭介
音楽:堤博明、照井順政、桶狭間ありさ
音響監督:藤田亜紀子
音響制作:dugout
制作:MAPPA
(c)芥見下々/集英社・呪術廻戦製作委員会
公式サイト:https://jujutsukaisen.jp/#index