年末企画:宇野維正の「2020年 年間ベスト映画TOP10」 面白いのはこれから(逆ギレ気味に)

宇野維正の「2020年映画TOP10」

 リアルサウンド映画部のレギュラー執筆陣が、年末まで日替わりで発表する2020年の年間ベスト企画。映画、国内ドラマ、海外ドラマ、アニメの4つのカテゴリーに分け、映画の場合は、2020年に日本で公開された(Netflixオリジナルなど配信映画含む)洋邦の作品から、執筆者が独自の観点で10作品をセレクトする。第17回の選者は、映画・音楽ジャーナリストの宇野維正。(編集部)

1. 『Mank/マンク』
2. 『アンカット・ダイヤモンド』
3. 『WASP ネットワーク』
4. 『パラサイト 半地下の家族』
5. 『バクラウ 地図から消された村』
6. 『フォードvsフェラーリ』
7. 『はちどり』
8. 『ヴァスト・オブ・ナイト』
9. 『ブルータル・ジャスティス』
10. 『シカゴ7裁判』

『アンカット・ダイヤモンド』Netflixにて配信中
『WASP ネットワーク』Netflixにて配信中
『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
『バクラウ 地図から消された村』(c)2019 CINEMASCOPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA
『はちどり』(c)2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.
『ブルータル・ジャスティス』(c)2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED
『シカゴ7裁判』Netflixにて配信中
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『アンカット・ダイヤモンド』Netflixにて配信中
『WASP ネットワーク』Netflixにて配信中
『パラサイト 半地下の家族』(c)2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED
『バクラウ 地図から消された村』(c)2019 CINEMASCOPIO – SBS PRODUCTIONS – ARTE FRANCE CINEMA
『はちどり』(c)2018 EPIPHANY FILMS. All Rights Reserved.
『ブルータル・ジャスティス』(c)2018 DAC FILM, LLC. All RIGHTS RESERVED
『シカゴ7裁判』Netflixにて配信中
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 10作品中スクリーンで観ることができた作品は、相変わらずのノー・プロモーションで限定的に劇場公開されたNetflixオリジナル映画の『シカゴ7裁判』と『Mank/マンク』、昨年の東京国際映画祭でかかった『WASP ネットワーク』の3作を含めて8作。それらの作品も日本の多くの観客/視聴者はNetflixでしか見られないわけで、事実上、ベスト10の半数が配信作品となった。リストアップした11位以下も、『悪魔はいつもそこに』『サウンド・オブ・メタル』『ハーフ・オブ・イット:面白いのはこれから』と配信作品が続いていく。2020年が「特別な1年」だったからではない。今後は間違いなくこれが常態化していく。未だに日本のメディアだけで出くわす「劇場公開作品に限定したベスト10」は独り善がりで反動的というだけでなく、もはや大多数の読者にとって無意味で無価値だ。

 映画評論家(評論家という言葉は好きではないので自分からは名乗らないが)としての生活環境も、3月以降は、ごく一部の国内外のメジャースタジオ作品を除いてほとんどすべての作品がオンライン試写で視聴可能、作品によってはスクリーン試写自体がない、という激変に見舞われた。「見舞われた」というとネガティブに聞こえるかもしれないが、変化のスピードには少々戸惑ったものの、この変化は5年前から予想していたことだ(過去5年分の自分の「年間ベスト映画」記事を読んでいただければわかるはず)。

 映画館も、そこで上映される作品も、制作会社も、配給会社も、宣伝会社も、映画メディアも、映画評論家も、2020年を境にどんどん減少していくだろう。大事なのは、そこで「守るべきもの」を見誤らないことだ。そもそも、こんなに文化全般に対して冷淡な、あらゆる意味で貧しい国で、90年代前半のバブル期さえも大きく上回る年間約700本もの映画が製作されていたことが異常だったのだ。もちろん、映画評論家こそが誰からもまったく守られることがない、プロフェッションとしては最も絶滅の危機に瀕した存在であることは心得ている。しかし、作品が資本の多寡だけで選別されるのではなく、「外部」の視線に晒された上で選別されるためにもーー評論家はともかくーー批評は極めて重要だ(だから、『Fukushima 50』に評者全員がちゃんと★一つをつけるメディアにもまだ存在価値がある)。劇場運営を含む「内部」は、この逆境を機会に労働環境の改善に本気で取り組んでほしい。それが不可能ならば撤退も視野に。2020年代は、きっとそういう時代になる。

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