『おちょやん』は親のいない子どもたちの物語に? すれ違う未来を暗示させる千代と一平の会話

『おちょやん』親のいない子どもたちの物語?

 テルヲ(トータス松本)を追い返した千代(杉咲花)だったが、内心は複雑だった。『おちょやん』(NHK総合)第17回で、千代は家族との板挟みになって悩む。「悔しいわ。さんざん恨んで、やっと忘れて、ここで生きていくて決めた途端やのに『また一緒に暮らそ』言われたら嬉しかった」。一平(成田凌)に指摘されて、自身の胸の内をのぞくと、捨てたはずの家族への思いが残っていた。

 テルヲは毒親であるに違いない。貧苦から子どもを奉公に出すだけなら、まだ仕方ないとあきらめもつく。しかし実際は、千代を身売りするため、ヨシヲ(荒井陽向)が病気であると嘘をついていた。しかもヨシヲは「出ていっこった。もう何年も前や」というのだから、もはや怒りを通り越して呆れるほかない。

 だが、そんな毒親でも家族ではある。「頼む! もう千代しかおれぃんのや」と懇願され、千代は一瞬ためらうが、すぐに気を取り直し、テルヲに向かって言い放つ。「うちは1人で生きていくて決めた。二度とうちの前に現れんといて」。愛嬌があって憎めない父親のテルヲが、落ちぶれて、表情から余裕がなくなっていく。生活に追われ、親としての情愛も失い、悪辣さだけが残る。変わり果てた父を前に、千代はテルヲがどんな人間であるかを思い出した。この人は8年前に自分を捨てた人なのだと。

 8年前に家を出た時、千代にはまだ親子の情が残っていた。「うちがあんたらを捨てたんや」という言葉には、「親に捨てられたことを認めたくない」という気持ちも込められていたように思う。岡安での奉公も、家族のためと思えば耐えられた。しかし、時が経ち、千代にはわかってしまったのだ。残酷なくらい、はっきりと。自分が親に捨てられたことが。

 ここまでの放送で徐々に明らかになってきたのは、『おちょやん』が親のいない子どもたちの物語であること。本来受けるべき愛情を受けないまま大人になり、世の中を渡っていく。それは千代だけでなく、一平も同じだ。一平はテルヲに「あんたみたいなアホな親見てたら、我慢できひん」と本音をぶつける。

 千代と一平は、親がいないという一点でつながっている。2人の会話が切ない。「冷たいなあ。こないな時はたいがい『何があったんや』とか聞くもんやのに」(千代)、「何があったんや」(一平)、「もうええ」(千代)。優しさを示されても甘えられない千代と、突っぱねられると悪態をついてしまう一平。愛情を返すすべを知らない2人には、すれ違っていく未来が見える。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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