『鬼滅の刃』人気を底上げする存在? 魘夢、猗窩座ら、悪しき鬼たちにも魅力あり
公開初日から、週を重ねるごとに歴代の興行成績を塗り替えていく『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(以下、『無限列車編』)。2020年10月16日に封切られた本作は、“今週の映画ランキング”どころか、“歴代ランキング”の2位につけている。こんな社会現象を巻き起こしているのにはさまざまなファクターがあり、主人公の竈門炭治郎や、“煉獄さん”らの魅力だけではもちろんない。ここでは、『無限列車編』で炭治郎らと敵対する、魘夢や猗窩座といった鬼たちの存在について触れてみたい。
※本記事には映画のストーリーに関わるネタバレが含まれます。
魘夢といえば、鬼たちの生みの親である鬼舞辻無惨が選抜した“十二鬼月”のひとり。洋装姿が特徴的な“下弦の壱”だ。テレビアニメ版である『竈門炭治郎 立志編』では、“下弦の伍”の累が率いる“一家”に背水の陣で挑んだ炭治郎たちであったが、この数字を見て分かるように、魘夢の方が累より格上である。これらのことはもはやかなり多くの方が周知のことと思うが改めて。
そんな魘夢は『竈門炭治郎 立志編』にて累が斬首されたあと、ほかの下弦の鬼たちが無惨によってアッサリ粛清されていくなかでも生かされ、さらには血を分け与えられた存在。鬼として、いわばパワーアップしたわけだ。しかし、それまでの魘夢の力がどれくらいのものであったのかは分からないのだから、比較のしようがない。ただ一点、彼が炭治郎たちの前に立ちはだかる前から、常軌を逸したキャラクターだということは分かっていた。くだんの“無惨様お怒りシーン”における彼の態度を思い返してみればいい。鬼も元は人間。無惨を前に震え上がるほかの鬼の面々と比べ、彼だけは様相が異なっていた。その魘夢が無惨から血を分け与えられたらどうなるのかーー彼の異常さに拍車をかけることは想像に難くないだろう。
実際、魘夢は炭治郎たちを大いに苦しめた。それは肉体的にだけでなく、精神的にもだ。彼は『竈門炭治郎 立志編』から『無限列車編』までにおいて、もっともズルく、賢い鬼である。彼自身は血鬼術によって炭治郎らを眠りにつかせ、直接的に手をくださせるのは立場の弱い人間たちという卑劣な姿勢。他者の不幸な顔を見ることを好むだなんて、あまりにもタチが悪い。どんな鬼にも慈悲をかけてきた炭治郎が例外視するのも納得だ。しかし魘夢のこういった性質が、炭治郎の優しさや、純粋無垢さをより引き立てていることは間違いない。彼はその役割を担っているのだ。魘夢の狡猾な態度はその一貫性において、魅力だとすらいえるだろう。