『鬼滅の刃』人気を底上げする存在? 魘夢、猗窩座ら、悪しき鬼たちにも魅力あり

『鬼滅の刃』人気を底上げする悪しき鬼たち

 さて、『無限列車編』で魘夢が果てたあと、疲弊した炭治郎たちを絶望させるかのように登場したのが“上弦の参”の猗窩座である。原作ファンであれば、彼に魅力を感じている方も多いのではないかと思うが、アニメ版の炭治郎らとともに鬼殺隊の道を歩んでいる方々のなかには、「猗窩座だけは許せない!」という怒りの声も少なくない。彼は、炭治郎、善逸、伊之助たち若者の心を打ち砕いてしまうほどの圧倒的な力と知恵を有し、それを駆使する存在だ。炭治郎を「弱者」と断定したことや、鬼であるがゆえに陽光から逃げるため、戦闘中に逃げ出したのは許しがたい。

 とうぜん原作では、『無限列車編』以降も猗窩座は姿を見せる。そこで彼の魅力を知る方も多いだろうが、ここはあくまでアニメ版の話。煉獄さんの壮絶な最期を予期していなかった方にとっては憎んで当たり前の、悪しき鬼である。しかし、おそらくアニメ版でも今後その性質をあらわにするであろう猗窩座の魅力の片鱗は、この『無限列車編』でも垣間見えることだろう。彼はとにもかくにも“強さ”を求め、それに固執している鬼。かつて人間であったはずの猗窩座は、強さに限界のある人間という存在を軽んじているが、煉獄さんの強さは認めている。あまりに狡猾な魘夢とは大きく異なるタイプの鬼なのだ。強き者を「強い」と認めるーーここに彼の妥協なき強さへの探求心と、誠実さをみとめることができるように思う。

 もちろん、手負いの炭治郎を「弱者」と断定し、早々に排除しようとした姿勢は許しがたい。しかし今回、手も足も出なかった炭治郎がさらに高みへ登れば、やがて相対する彼の態度も変わってくるものだろうといえるはず。それに何より、武器を持たない“肉体派”というのも潔く、好感を持っているのは筆者だけではないだろう。

 現時点で登場している鬼のなかでは、“家族”というものへ狂気的な憧れを募らせていた累が個人的には好きだが、『無限列車編』で炭治郎たちが対峙する相手として、魔術的な血鬼術を使う魘夢と、身体でぶつかっていく肉体派の猗窩座のこのバランスは、非常に良かったと思う。『鬼滅の刃』にかぎった話ではないが、鬼(敵)の魅力があってこそ、作品はより加速するのだろう。

『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』公開中PV

※煉獄杏寿郎の「煉」は「火」に「東」が正式表記。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』
全国公開中
声の出演:花江夏樹、鬼頭明里、下野紘、松岡禎丞、日野聡、平川大輔
原作:吾峠呼世晴(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)
監督:外崎春雄
キャラクターデザイン・総作画監督:松島晃
脚本制作:ufotable
サブキャラクターデザイン:佐藤美幸、梶山庸子、菊池美花
プロップデザイン:小山将治
コンセプトアート:衛藤功二、矢中勝、樺澤侑里
撮影監督:寺尾優一
3D監督:西脇一樹
色彩設計:大前祐子
編集:神野学
音楽:梶浦由記、椎名豪
主題歌:LiSA「炎」(SACRA MUSIC)
アニメーション制作:ufotable
配給:東宝・アニプレックス
(c)吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable
公式サイト:https://kimetsu.com
公式Twitter:@kimetsu_off

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