“運動”自体がキャラクターの感情表現に? 『ハイキュー!!』『ユーリ!!! on ICE』などスポーツアニメの魅力
『ユーリ!!! on ICE』に見るアニメとスポーツの相性
先に、映画(映像)はモーションでエモーションを表現するもので、スポーツもまた同様であると書いた。そのことは、フィギュアスケートを題材にした『ユーリ!!! on ICE』という作品を見るとよくわかる。まさにスケートによる演技の一挙手一投足に登場人物の感情が乗せられている。
フィギュアスケートの演技にはテーマがある。『ユーリ!!! on ICE』で主人公は、コーチのヴィクトルから「アガペーとエロス」をテーマに与えられ、スケーティングで表現していくことになる。本作でもっとも雄弁にキャラクターの感情を語るのはセリフでも物語でもなく、スケーティングシーンそのものだ。その動きの一つ一つに、再構成されたアガペーとエロスが詰め込まれている。アニメーションで描かれたそれらの動きは、やはり生放送の中継とは異なる距離感を視聴者に与える。それは、カメラポジションの問題だけではないはずで、ゼロから選手の動きをアニメーターの解釈で「再構成」しているが故に、より選手の主観に近い感情が動きに宿っているのだ。
本作は、作画のためにスケーターの参考映像が用意されている。映像をそのままなぞるロトスコープではなく、あくまで参考に見ながら描いているそうだが(後半の話数では3DCGも参考映像として用意されるようになったそうだ)、その参考映像は絵コンテに合わせた構図で撮られているものではなかったそうだ。なので、作画担当が、コンテの構図に合わせて、動きを文字通り再構成する必要があった。結果として、それはより強くアニメーターの解釈によって動きを再構成することにつながり、動きに秘めた感情が強く表現されることとなったのではないか(参照:『アニメスタイル』Vol.011、「[特集]ユーリ!!! on ICE」)。
スポーツのモーションとエモーションをどう構成するか、近年では様々な試みがなされている。先に挙げた『ユーリ!!! on ICE』は実写映像を参考に描いたが、自転車レースを題材にしたアニメ『弱虫ペダル』では、迫力あるレースシーンを作るために3DCGと作画のハイブリッドで挑んでいる。
『弱虫ペダル』のレースシーンは、ロングの画に関しては全身CG、クローズアップは手描き作画、そして全身と表情がはっきりと映るミドルショットの画では、身体は3DCG、顔は手描きという手法を選択した。プロデューサーの竹村逸平氏は、「ロードレースのスピード感とか迫力を出すためには、どうしてもミドルサイズでガツガツぶつかりながら、勝負をしているような表現をしなければならない。そこでは、魂で走っている部分を顔で表現しなければならない」と考えたそうで(参照:『オトナアニメ』Vol.36「スポーツアニメの現在」、P7、洋泉社Mook)、顔も動きも熱のこもった映像に仕上がっている。
『弱虫ペダル』は実写映画版も製作されているが、実写はCGやボディダブルを極力使わず、生身の役者がレースシーンに挑んでいる。役者が自らの肉体の限界に挑む様は、それ自体大変に感動的で、実写版は良質な青春映画に仕上がっているが、それは裏を返すと「役者の肉体」という限界が存在するということでもある。だが、アニメなら様々な手法でその限界を超え、プロのアスリートの「動き」の感動に近づくことができる。そういう点でもアニメーションは、実写よりもスポーツのリアルに迫りやすいと言えるかもしれない。余談だが、近年は実写映画もCGとボディダブルを巧みに使用することで役者の肉体の限界を超えた迫真のスポーツシーンを作る作品も生まれている。実在のフィギュアスケーター、トーニャ・ハーディングを描いた『アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル』では、プロのスケーターが躍ったボディに主演女優の顔を合成する手法を採用している(実写版『弱虫ペダル』よりもアニメ版のやり方に似ている点が興味深い)。
実際、近年スポーツを題材にしたアニメは、それぞれのスポーツのリアルに迫る内容が多くなってきた。駅伝を描いた『風が強く吹いている』や、水泳の『free!』、今年は体操の『体操ザムライ』やクライミングの『いわかける!- Sport Climbing Girls -』、来年にはカバディを描く『灼熱カバディ』など、題材にされるスポーツも多岐にわたってきており、それぞれの動きに込められた感動を初心者にもわかりやすく伝えるものが増えている。
モーションが生み出す感動が詰まったスポーツという題材は、アニメーションととても相性が良い。これからも様々なスポーツがアニメーションで描かれていくだろう。それは、人間が「動き」に感動する生き物である限り続くはずだ。
■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。