コメディ初挑戦の北村匠海が誘うパーティー すべての世代に開かれた成長譚『とんかつDJアゲ太郎』

『とんかつDJ』で高め合う真の友情

 もちろん、メガホンを取ったのが『THE LIMIT OF SLEEPING BEAUTY – リミット・オブ・スリーピング ビューティ』(2017年)や『チワワちゃん』(2019年)の二宮健監督とあって、映像と音楽の融合による、めまいを起こすようなドラッギーな感覚がまったくないわけではない。マルーン5やケミカル・ブラザーズの音楽に合わせて目まぐるしく交差する映像は、まるでダンスしているようだ。映画館の観客を、視覚と聴覚の情報を通してダンスフロアに誘い込むことに成功しているように思う。映画の構成としては二宮監督作品らしいが、幅広い観客が“ノれる”ように抑制されているうえ、ストーリーが主人公の成長譚という予定調和なものなので、いい意味で先が読める。だからこそ、子どもから大人まで楽しめるものだと思うのだ。


 “とんかつ”を求める人々と、“ダンスフロア”を求める人々が邂逅を果たすシーンはなんともアホらしい。だが個人的には思わず涙ぐんでしまった。それはもちろん、ふつうであれば出会うことのない人々が出会う瞬間が、そこにあったというものでもある。腹ペコで“とんかつ”を求めている者が連れられていった先がクラブであれば腹が立ってもおかしくはない。そしてもし、アルコールと最高の音楽に酔いしれる者たちの“ダンスフロア”に、とんかつを求める人々が大挙してくれば、いい気がしないどころか興ざめである。

 しかしそこにあふれているのは、つい身体が揺れてしまう音楽と、まるで“とんかつ”を揚げるようなビート。それになにより、そこから生まれる人々の笑顔だ。ここでカメラは“とんかつ”を求めてきた人々と、“ダンスフロア”を求めてきた人々という、相反する(?)はずの人々の笑顔をアップで捉えている。スクリーンには、さまざまな人の笑顔が大きく映し出されているのだ。


 現在、人々の笑顔を見つめられる機会というのは少ない。マスク着用が常態化し、すきまからのぞく顔だけから“喜怒哀楽”の感情を読み取ることは難しい。相手が感じているものを知るには言葉が必要だ。ところがこの笑顔だけの画の連続には、言葉を介さずとも多幸感を得ずにはいられない。いまやその機会が失われている瞬間が、ここにはあるのだ。

 ネットスラングである「アゲ」というものは、いまとても大切なものだと思う。気分をアゲたければ、映画館の暗闇にひっそりと身を委ねに向かえばいい。思わず笑顔でパーティーに参加してしまうあなたがいるはずだ。

■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter

■公開情報
『とんかつDJアゲ太郎』
全国上映中
出演:北村匠海、山本舞香、伊藤健太郎、加藤諒、浅香航大、栗原類、前原滉、池間夏海、片岡礼子、ブラザートム、伊勢谷友介、新田真剣佑(友情出演)
原作:『とんかつDJアゲ太郎』原案:イーピャオ/漫画:小山ゆうじろう(集英社ジャンプ・コミックス刊)
監督・脚本:二宮健
脚本協力:喜安浩平
配給:ワーナー・ブラザース映画
(c)2020イーピャオ・小山ゆうじろう/集英社・映画「とんかつDJアゲ太郎」製作委員会
公式サイト:agaru-movie-tda.jp
公式Twitter:@tonkatsuDJmovie

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「作品評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる