コメディ初挑戦の北村匠海が誘うパーティー すべての世代に開かれた成長譚『とんかつDJアゲ太郎』

コメディ初挑戦の北村匠海が誘うパーティー すべての世代に開かれた成長譚『とんかつDJアゲ太郎』

 「マジでグッドなバイブスでテンションぶちアゲ☆」というような環境から離れて久しい。しかし、いまここにはそんな感覚を取り戻すことができる映画がある。それはもちろん、『とんかつDJアゲ太郎』のこと。映画館へ行ってみるといい。そこでは老若男女を問わず誰もが参加できる、超ゴキゲンなパーティーが開かれている。

 “とんかつ”も“フロア”もアゲられる男になるーーある日、主人公・アゲ太郎(北村匠海)はこう宣言する。なんとも不可解な宣言。しかしだ。“とんかつ”と“フロア”をアゲるというのは、一見して無関係なもののように思えるが、ときに私たちの中に生まれる“高揚感”の「揚」という文字は、“とんかつを揚げる”の「揚」と同じである。人の心を揚げるのも、とんかつを揚げるのも、そこにいる誰かを笑顔にするという点では同じなのかもしれない。そんなふうにして、渋谷の老舗とんかつ屋の三代目・アゲ太郎が、跡取りとして、そしてDJとして成長していくのが本作のストーリーラインだ。


 ときに私たちは一瞬にして、“オチる”ことがある。それは恋のことであり、また、恋に似た「何か」のこと。アゲ太郎はたまたま訪れたクラブにて、憧れの女性・苑子(山本舞香)に対して恋に落ち、初めてのクラブカルチャーに落ちる。

 いまいる自分の世界とは異なる世界に足を踏み入れたとき、その一歩を間違えれば踏み外してしまい、堕ちていくこともあるが、アゲ太郎の場合は違う。彼は落ちていきながらも(どっぷり沼にハマっていきながらも)、堕ちることはない。

 ふつうサクセスストーリーといえば、ふとしたことをきっかけに、主人公が堕ちていくことがある。成長の過程で己の未熟さを知り、憧れの境地までの壁の高さに打ちひしがれることもあるだろう。しかし彼は“アガる”ことしか知らない。それは彼の特性であり、彼を取り囲む仲間たちのおかげでもある。書店の三代目・平積タカシ(前原滉)、薬局の三代目・白井錠助(栗原類)、電飾業の三代目・夏目球児(浅香航大)、旅館の三代目・室満夫(加藤諒)らがあってこそ、アゲ太郎は堕ちることを知らない(もちろん、多少は落ち込むこともあるが)。

 彼らのチームワークもいい。本作で映画単独初主演を務めた北村匠海はコメディ初挑戦。先述したようなデタラメな名(迷)ゼリフのオンパレードと、奇天烈なストーリー展開がつづく本作とあって、ひとりで突っ走っていくのは大変なのだろうと思う。そこで大切なのが仲間役だ。アゲ太郎の友人である本屋さんも電気屋さんも、誰も彼もがドを超えたおバカ。しかし彼らは、自分の趣味趣向と仲間がズレているからといって、“サゲ合う”ようなことはけっしてしない。

 彼らは互いに“アゲ合う”ことによって、チーム関係を維持している。だからいくらデタラメなセリフが飛び出してきたところで、私たちは笑うことはあっても、嘲笑うことはないだろう。彼らは真剣そのものなのだ。彼らの持つグルーヴに勝てはしない。本作はクラブカルチャーを扱ってはいるが、描かれているのはひとりの青年の成長譚であり、異なる個性を認め合い高め合う真の友情。そこに“年齢制限”などありはしないのだ。すべての世代に開かれた映画である。

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