アカデミー賞有力候補『ノマドランド』 MCU『エターナルズ』抜擢の監督らが明かす製作の裏側
今年のヴェネチア国際映画祭で金獅子賞とトロント国際映画祭で観客賞を受賞したアカデミー賞最有力候補の話題作『ノマドランド』が、第58回ニューヨーク映画祭載センターピース作品として出展され、その待望の新作について、クロエ・ジャオ監督と製作者ピーター・スピアーズらが想いを吐露してくれた。
アメリカのネバダ州で暮らす60代の女性ファーン(フランシス・マクドーマンド)は、リーマン・ショックによる未曾有の経済危機によって、企業の倒産で住み慣れた家を失ってしまう。そして、彼女はキャンピングカーに荷物を積み込んで、「ノマド(遊牧民)」と呼ばれる車上生活者に。過酷な季節労働の現場を渡り歩くことになるが、徐々にファーンは同じ境遇の「現代のノマド(遊牧民)」の人々と交流を深めていく。『ノマドランド』は、作家ジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド:漂流する高齢労働者たち」を映画化したもの。映画内では、フランシス・マクドーマントとデヴィッド・ストラザーン以外は、ほぼ俳優未経験の人々をキャスティングしている点も注目だ。
製作者のスピアーズは、夫ブライアン・スウォードストロームから話題の原作を勧められて、読んだそうだ。その際に「原作を脚色しやすく、マクドーマンドがリンダ・メイ(原作の主人公の名前)を演じれるかもと思った」と明かす。そのときマクドーマンドは、映画『スリー・ビルボード』でトロント国際映画祭にいたが、原作に惚れ込んで取材を抜け出し、すぐに作家ジェシカ・ブルーダーに会ったという。その際に、マクドーマンドは製作者スピアーズに「この映画(『ノマドランド』)に、ぴったりな人を見つけたわ」と自身が主役を演じる意図で、メッセージを残したそうだ。
そして、ジャオ監督、製作者スピアーズ、マクドーマンドはともに会合を開き、原作をそのまま脚色するだけが、必ずしもリンダ・メイの人生を映像化するというアイデアではないという考えに行き着いたという。スピアーズは「より掘り下げて、スケール大きく、(リンダの人生を)探索したかった。そこから、クロエ監督は私たちからバトンを引き継いだ」と語っている。やがて、映画は本格的な製作に入っていく。
ジャオ監督は、これまでの3作品では俳優経験のない人(ノンプロの俳優)たちとも仕事をしてきて、何かを役柄に持ち込むことができるような俳優未経験者を探してきたように思える。今作では、女優マクドーマンドが演じたキャラクター、ファーンは、どの程度、女優マクドーマンド自身から引き出されたものなのか。「ほとんど(キャラ設定)は、マクドーマンド自身をまとめたようなものなの。今作で使用されている写真は、実際にマクドーマンドが友達と撮ったものだったり、衣装はマクドーマンド自身がサルベーション・アーミー(スリフトショップ)で見つけたりもしたの。マクドーマンド演じるファーンの姉役も、マクドーマンドの親友からインスピレーションされて作り上げた役柄で、さらにデヴィッド・ストラザーン演じたデイヴは、マクドーマンドの近所の方から影響されて作られたキャラクターなの」とは語る通り、映画内では、マクドーマンドは、まるでずっと「ノマド( 現代の遊牧民)」の暮らしをしてきたような格好をしている。