『借りぐらしのアリエッティ』は決して“失敗作”ではない ダイナミズムと対極のささやかな世界の魅力
8月28日の『金曜ロードSHOW!』(日本テレビ系)で米林宏昌監督の『借りぐらしのアリエッティ』が放送される。本作は、2010年代スタジオジブリの最初の作品であり、米林氏の長編監督デビュー作である。80年代から2000年代にかけてほとんどの作品を宮崎駿と高畑勲の両巨頭が監督してきた同スタジオが世代交代を企図した作品であり、公開当時37歳だった米林監督はジブリ史上最も若い監督となった。
しかし、本作そのものは失敗作では全くない。30代の新人監督のデビュー作としては非常に完成度の高い作品であるし、スタジオジブリのエッセンスを随所に感じさせながら、宮崎・高畑作品にはなかった新風も吹き込んでいる。米林監督がもたらしたその新風について書いてみたい。
『借りぐらしのアリエッティ』は、イギリスの作家メアリー・ノートンの児童小説『床下の小人たち』を原作にしている。舞台を日本に置き換え、人間の住居の床下でひっそりと暮らす小人たちが人間のものを少しずつ借りて生活する「借りぐらし」を描いた作品だ。主人公のアリエッティは14歳の小人の少女で、好奇心旺盛な彼女が外に出た時、人間の少年、翔に見られてしまったことから始まる物語を情感豊かに描いている。
アリエッティは活発で、勇気があり、虫を愛でるジブリらしいヒロイン像を体現している。王蟲の形によく似たダンゴムシをなでるアリエッティにナウシカの面影を見る観客もいるだろう。舞台となる翔の祖母の家は、繁華街からやや離れた位置にある緑に囲まれた邸宅であるのもジブリらしい舞台設定だ。
しかし、米林監督のこのデビュー作は、単純な従来のジブリ要素を寄せ集めて再構築しただけの作品にはならなかった。これまでのジブリ作品にはあまり見られなかった耽美な美しさを内包した作品になっている。