『MIU404』は一挙手一投足に宿るスイッチに寄り添う 星野源が抱える“しなかった”ことへの後悔
そして、たどり着いた志摩の元相棒・香坂(村上虹郎)の死の真相。その事実に触れて、もっとも心を揺さぶられたのは九重だったように見えた。「俺が香坂刑事だったら、志摩さんに言えたかな。自分が使えない奴だって、認めるのは、怖い」。それは、ずっとしっかりしなきゃと気を張ってきた九重の心からこぼれた本音。
そんな九重を、陣馬は「間違いも失敗も言えるようになれ。バーンと開けっぴろげに! はじめから裸なら何でもできる」と受け止めた。きっとこのやりとりも大きなスイッチになったに違いない。現に飲みには行かないが、「メシなら」と2人の距離が縮まったのだから。
「スイッチはいくらでもあった。だけど現実の俺は、どれも見過ごした。見ないふりをした」。後悔をしてもしきれない。相棒の死は、不運が重なった事故死だったかもしれない。いや、絶望した自殺かもしれない。それは、自分が追い込んだ他殺と言えるかもしれない……誰かの死を見つめるとき、近くにいた人ほど自分を責めてしまうものだ。
悔やんでも悔やんでも時間が戻らない残酷な現実に、志摩が刑事を続けていくしかなかったのだろう。「お前が言うな」のブーメランを何度もくらって痛みに耐え、心の中で元・相棒にかけたかった言葉を叫び続ける。その日々が贖罪と感じていたのかもしれない。だが、そんな志摩の心の時計も、伊吹というイレギュラーなスイッチによって、動き始める。
もう今の志摩は、相棒から「屋上に来い」の電話を無視したりはしない。そこで知ったのは、伊吹が見つけた最期まで刑事であろうとした香坂の姿だった。「お前の相棒が、伊吹みたいなやつだったら、生きて、刑事じゃなくても生きて、やり直せたのにな」と香坂に語りかける志摩は、静かに強く「忘れない」とつぶやく。
〈どうして どうしてできるだけ やさしくしなかったのだろう 二度と会えなくなるなら〉とは、1988年に松任谷由実がリリースした「リフレインが叫んでる」のフレーズ。今回のタイトルと志摩の気持ちにリンクして、ふいに思い出してしまった。落ちてしまう玉を救えたかどうかはわからない。けれど、できるだけやさしくしていたら、結末が少し変わるスイッチにはなれたかもしれない。
今、SNSにつぶやいた一言が、通りゆく人に見られた一挙手一投足が、真実を知ろうとして踏み出した一歩が、「その一個、一個、一個、全部がスイッチ」。だから、できるだけやさしく、そして冷静に情報を見つめ、一瞬一瞬を大切に過ごそうではないか。香坂の検体者記録の解剖医欄に「三澄ミコト」の名前があるなんていう、嬉しいサプライズに気づけたほうが人生は楽しいのだから。
■放送情報
金曜ドラマ『MIU404』
TBS系にて、毎週金曜22:00~22:54放送
出演:綾野剛、星野源、岡田健史、橋本じゅん、黒川智花、渡邊圭祐、金井勇太、生瀬勝久、麻生久美子、黒川智花
脚本:野木亜紀子
演出:塚原あゆ子、竹村謙太郎、加藤尚樹
プロデュース:新井順子
音楽:得田真裕
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS