『M 愛すべき人がいて』と『奪い愛、冬』の共通点を探る 鈴木おさむワールドの求心力
また、鈴木おさむの遊び心が炸裂していたのが、康太の母親に榊原郁恵を配置し、息子を溺愛する末恐ろしい姑役を演じさせ、幼なじみ役としてダレノガレ明美を置いていた点だ(因みにこの幼なじみの名前も礼香だ)。さらに康太に好意を寄せ、光との仲を邪魔する同僚役・秀子を秋元才加が演じる。この秀子は会社の部長と親密な関係にあり、あの手この手で光を陥れようとする。本作でも、アユのデビューに嫉妬する同じくアーティストの卵の玉木(久保田紗友)が登場。アユの頭上からオレンジジュースをかけたり、アユに対抗してデビューすべくマサの右腕である流川(白濱亜嵐)に取り入ったりする。
女性同士の嫉妬を上手く燃料にし、ここまで見事に起爆剤として燃え上がらせ、もはやホラーでもあり喜劇にまで昇華させられる仕掛け人は鈴木おさむくらいではないだろうか。ともすれば悪意さえ感じられる絶妙な、しかし意表を突いた配役っぷりは、本作ではさらに冴え渡って発揮されている。まず、小室哲哉をモデルとしている輝楽天明(新納慎也)。マサに対して、あからさまに時代錯誤でクセも強い。そして、あまりにバブリーで悪党臭のするA VICTORYの大浜社長に高嶋政伸を、アユの元所属事務所の中谷社長に高橋克典を。2人のギラギラ感と曲者感が見事に役にマッチしている。
『奪い愛、冬』でも、熱海旅行のシーンや雪山でのシーンなど、古めかしくバブリーで昼ドラを思わせる敢えてのダサさが上手く共存させられ、それがドロドロの愛憎劇ぶりを加速させていた。同じ仕掛けは本作でも随所に織り込まれ、先述の輝楽や芸能事務所の社長2人の装いを筆頭に、エキストラの中にも明らかに時代背景がずれている人たちを紛れ込ませている。マサがハート型の風船をジャンプして掴んでみせたり、合宿でひた走るアユに向かってなぜか突然降りしきる雨の中崖の上から現れ叱咤激励するシーンなどは視聴者を笑わせにかかっているとしか思えない。アユもアユで、砂浜の上にかなりの長文をしたため、さらにはそれを口に出して叫ぶというトレンディーさ。
ツッコミどころ満載で、怪演のオンパレード。病みつき必至の本作、今後どんな鈴木おさむワールドを見せてくれるのか、やはり目が離せそうにない。
■楳田 佳香
元出版社勤務。現在都内OL時々ライター業。三度の飯より映画・ドラマが好きで劇場鑑賞映画本数は年間約100本。Twitter
■放送情報
『M 愛すべき人がいて』
テレビ朝日系にて、毎週土曜 23:15~0:05放送
ABEMAにて、独占配信
出演:安斉かれん、三浦翔平、白濱亜嵐、田中みな実、久保田紗友、河北麻友子、田中道子、新納慎也、市毛良枝、高橋克典、高嶋政伸
原作:小松成美『M 愛すべき人がいて』(幻冬舎刊)
脚本:鈴木おさむ
企画:藤田晋(ABEMA)
ゼネラルプロデューサー: 横地郁英(テレビ朝日)
プロデューサー:服部宣之(テレビ朝日)、谷口達彦(ABEMA)、山形亮介(角川大映スタジオ)、佐藤雅彦(角川大映スタジオ)
アソシエイトプロデューサー:川島彩乃(ABEMA)
演出:木下高男、麻生学
主題歌:浜崎あゆみ「M」(avex trax)
制作:テレビ朝日
制作協力:角川大映スタジオ
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