『エール』唐沢寿明、菊池桃子、佐久本宝、三者三様の愛の形 再びの福島編へ

『エール』古山家、三者三様の愛の形

 『エール』(NHK総合)第11週「家族のうた」では、裕一(窪田正孝)の恩師・藤堂(森山直太朗)の依頼をきっかけに、舞台が再び福島に戻る。

 東京での裕一と音(二階堂ふみ)の新婚生活が始まったのが第7週から。実に4週ぶりの福島が舞台となる。鉄男(中村蒼)が「福島行進曲」の詩を持ってきた第44話で裕一は「僕ね、福島捨ててここに来たんだ。でも、忘れたことは一度もない。大将が思い乗せたこの歌詞で、もう一度……もう一度、ちゃんと福島と向かい合いたい」と、離れても心にずっとあり続ける福島への思いを明かしていた。

 家族のために権藤家を継ぐ道と自分の音楽の道、その後者を選んだ裕一。川俣銀行の頭取問題や融資が止まる喜多一が、その後どうなったのかは、第7週以降一切描かれていない。そして、最も気がかりなのが三郎(唐沢寿明)、まさ(菊池桃子)、浩二(佐久本宝)それぞれの思いだ。

 音楽の道を選び、福島を捨てたとしても、裕一にとって古山家は家族であり、喜多一は心の休まるふるさと。古山家には、三者三様の裕一への“愛”の形がある。

 「俺は本当、何やっても駄目だけど、おめぇだけは自慢だ。必ず成功する。早くレコード聴かせてくれな」と東京へと向かう裕一を一人見送った三郎。かつて、裕一の類稀な音楽の才能を藤堂に教えられた三郎は、まさに「嬉しいもんだな。初めてだな。あいつが褒められたの」としみじみ喜びを噛み締めていた。喜多一の存続と葛藤しながら、自分にはない才能、子供の夢を応援する姿は、窪田正孝が主演だから出演のオファーを受けたという唐沢寿明の姿勢とも不思議とリンクする。

 三郎とは異なる母としての愛情を向けるのが、まさ。「厳しい世界であの子が傷つく姿をもう見たくない」。そう言って、レコード会社との契約を反対するまさの思いは、話を持ちかけてきた音とは反対の裕一の幸せを願った思いだった。夫を立てる、言うなれば古風な女性であるが、「実家からの融資が止まって困るけれど、心のどこかで『行きなさい』と思っているまさを感じました」と演じる菊池桃子がインタビュー(引用:『エール』公式サイト)で答えている通りに、「そばにいてほしい」という言葉の裏には、息子の夢を応援する思いがあったのかもしれない。

 その一方で、裕一への愛憎の念が入り混じるのが、弟の浩二だ。裕福な家庭、恵まれた環境のもとで裕一とは愛情の度合いの違い、劣等感を浩二は感じていた。喜多一の店主として家を立て直そうとする考えを分かってもらえない焦りと苛立ち、そんな時に東京へと出て行こうとする裕一の身勝手さ。長年、積もり積もっていた憎しみを浩二は爆発させる。「周りの愛を当たり前だと思うなよ!」「これまでずっと我慢してきたけど、俺、兄さんが嫌いだ」。最後まで「優しさが鬱陶しい」と裕一に反発していた浩二は、第11週においても兄に冷たく、苛立ちを見せる。

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