ジュリアス・オナー監督が語る、『ルース・エドガー』の普遍性とキャスティングに込めた思い
ナオミ・ワッツとティム・ロスの共演は偶然
ーー『イット・カムズ・アット・ナイト』『WAVES/ウェイブス』などで近年高い評価を得るケルヴィン・ハリソン・Jr.ですが、共に仕事をして感じた彼の魅力について教えてください。
オナー:彼は素晴らしい役者です。キャスティングを振り返ると、ルース役を誰にするのかは非常に悩みどころでした。なにせルースは17歳で、元少年兵であり、ディベートのチャンピオンで、素晴らしいアスリートと、様々な条件がありましたから。事前の想像では舞台を経験した俳優がいいのかなと考えていましたね。しかし、ケルヴィンは走ることも得意ではないし、舞台俳優でもない。ニューオリンズ出身の音楽が好きなオタクみたいな人なんです(笑)。しかし、彼は音楽的センスがあるからなのか、身体をつかさどるのが巧みで、非常に良いリズム感を持っています。オーディションテープを見て驚いたのですが、見た瞬間に「これがルースだ」と確信したんです。彼はこれから大活躍すると思います。とても自然に自分をコントロールしながら演じてくれるので、カメラが引きつけられ、すごく信憑性が生まれるんです。ルースというキャラクターに具体性を持たせた演技をしてくれました。また一緒に仕事ができればなと思っています。
ーー高校教師・ウィルソンをオクタヴィア・スペンサーが演じるというのは、彼女が『シェイプ・オブ・ウォーター』などの作品で、主人公を助けるような、いわゆる“良い黒人”とも言うべきキャラクターを演じていることも相まって、非常に示唆的に感じました。キャスティングにあたって彼女のこれまで演じてきたキャラクター像は頭をよぎりましたか?
オナー:オクタヴィアも本当に素晴らしい役者で、みんなから信頼されているので、この映画には必要不可欠な人でしたね。過去の役だと、いかにも快活な黒人役を演じているわけですが、ここでは定型通りじゃない役を演じてほしかった。必ずしも好感度100%とはいかないキャラクターを演じていますが、そんな役を受けてくれるかどうか非常に不安でしたよ。なので、「ぜひやりたい」と言ってくれたときには、僕らも大喜びでした。高潔性を持ったキャラクターに仕上がっていると思いますが、必ずしも彼女の劇中での行動には賛同できません。彼女の腕によるところも大きいのですが、そういった複雑な多面的な人間味あふれる役にしてくれました。
ーーキャスティングだと、ルースの養父母を演じたナオミ・ワッツとティム・ロスは、ミヒャエル・ハネケ監督の『ファニーゲーム U.S.A.』でも夫婦役を演じていますね。
オナー:『ファニーゲーム U.S.A.』は大好きな作品ですが、今回に関しては全くの偶然です(笑)。本作に関しては、同じミヒャエル・ハネケの作品で、ジュリエット・ビノシュが出演している『隠された記憶』の影響が色濃いかなと思います。歴史が残した偏見の痕跡を、現代フランス社会の中でどう扱うかを描いていて、やはり観客に似たような問いを立てていますよね。キャスティングですが、まず僕はナオミ・ワッツが『マルホランド・ドライブ』の頃から大好きだったので、お願いすることにしたんです。その後「さあ誰と共演させようか」と考えたときに、たまたまティム・ロスが空いていたので(笑)。運命の不思議な巡り合わせといいますか、たまたま『ファニーゲーム U.S.A.』の夫妻になったという。よく現場でもそういうジョークを言い合っていました。でもルースの行動が不可解でよくわからないので、本作にも『ファニーゲーム』的な要素もあるかもしれません。ハネケの話になりますが、すごく影響力のある監督だと思っていて、政治とか社会とかモラルを真正面から考えて問題提起する素晴らしい監督だなと思っています。
■公開情報
『ルース・エドガー』
ヒューマントラストシネマ渋谷ほかにて公開中
監督・製作・共同脚本:ジュリアス・オナー
出演:ナオミ・ワッツ、オクタヴィア・スペンサー、ケルヴィン・ハリソン・Jr.、ティム・ロス
提供:キノフィルムズ
配給:キノフィルムズ/東京テアトル
2019年/アメリカ/英語/カラー/SCOPE/5.1ch/110分/原題:Luce/字幕翻訳:チオキ真理/PG-12
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