『未来少年コナン』を再放送の今こそ観よう 散りばめられた宮崎駿作品のエッセンス

 「作家は処女作に向かって成熟していく」とは文芸評論家の亀井勝一郎氏の言葉だが(『太宰治研究』より)、どんな作家にもデビュー作があり、そこには才能の萌芽とむき出しの野心と純粋な表現欲が溢れている。

 国民的アニメーション監督・宮崎駿にもそれは当てはまる。宮崎氏の監督デビュー作(名義は演出だが実質監督)『未来少年コナン』が現在、NHKにて再放送中だが、本作にはその後の宮崎作品に見られる諸要素が数多く散りばめられ、その才気とテーマ性を数多く発見することのできる作品だ。アレグザンダー・ケイの小説『残された人々』を原作としているが、大幅に改変を加え、宮崎氏独自の作品に仕立て上げられている。宮崎駿唯一のTVシリーズ監督作品であるという点でも貴重だが、それを抜きにしても日本のTVアニメ史の傑作としても名高い作品だ。

 スタジオジブリで作られた名作群と同じく色褪せない魅力を持つ本作だが、毎年のように放送されるジブリ映画作品と異なり、視聴機会は限られていたので今回の再放送は非常に貴重な機会だ。世界中を魅了した宮崎作品のエッセンスがぎっしりと詰まった本作の魅力を紹介してみたい。

文明崩壊の絶望と躍動する主人公

 『未来少年コナン』は、核兵器を超える超磁力兵器が使用された戦争で荒廃した未来を舞台にしたSF冒険活劇だ。地形は変形し大半の大陸が海に沈み、多くの人間の命が失われた。主人公のコナンは「のこされ島」と呼ばれる小さな島に「おじい」と2人で暮らしている。ある日、コナンは海岸に漂着した少女ラナを助ける。彼女はハイハーバーという島で生活していたところを、科学都市インダストリアルの連中に誘拐されたところを逃げてきた。追っ手に再び連れ去られたラナを救うために、コナンは大海原へと大冒険に出発する。

 一人の少女をめぐり、少年が小さな島から巨大兵器の眠る科学都市、牧歌的で質素な共同体の残る島まで様々なところを駆け巡る。その過程で個性豊かな仲間や敵と出会い、小さな島での生活しか知らなかった少年が成長してゆく。

 文明崩壊後の絶望の世界をもろともしない突進力ある主人公の躍動感、仲間と絆を育み団結して機械兵器に立ち向かうカタルシスに溢れている。人間の文明が地球を破壊する未来への不安、地震や津波などの自然の脅威も描かれ、それでもなお希望を捨てずに前向きに生きてゆくこと、冒険の楽しさを高らかに謳い上げた作品だ。

 最終戦争により文明が崩壊した世界観は、『風の谷のナウシカ』に受け継がれ、快活な少年が少女のために戦い、世界の危機を救う物語構成は『天空の城ラピュタ』に継承された。人類文明と自然の対立といった要素は、『ナウシカ』や『もののけ姫』など様々な宮崎作品の主要なエッセンスの一つで、宮崎氏の思想の変遷を読み解く上でも非常に重要な作品となっている。

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