『イエスタデイをうたって』の美術にみる“心象”の“風景化” 桜やカメラなどモチーフの役割を読む

 公式サイトでは、本作の舞台となる街並みや背景を制作した美術設定の藤井祐太氏、美術監督の宇佐美哲也氏の両氏によるインタビューが前後編に分けて公開された(参考:リアルと物語の「間」を描く。アニメ「イエスタデイをうたって」の“美術”を紐解く)。

 彼らの話によると、原作の時代設定である2001年という時代に合わせ、主人公・魚住陸生の住む部屋の電化製品や、街のいたるところに存在するモノたちの細かな設定を行ったという。2001年といえば、テレビはまだ旧式のアナログで、自動販売機にはtaspoなども存在しない。そういった「リアル」を「物語」に落とし込む作業は、作品内での統一された世界観を守ることに繋がり、また逆にいえばそうした時代逆行の設定を行うことでノスタルジックな雰囲気を作品に纏わせることになる。

 美術監督の宇佐美氏は、人物の位置や視線、光の当たり方や画面の色彩に至るまで、徹底したこだわりを見せている。後編で語った「キャラクターの心情で色を変える」というくだりでは、展開とそこにいるキャラクターの感情の種類に合わせ、画面に置く色彩を変えながら制作したと語っている。「心象」を「風景化」するという本作における魅力はここにも表れており、細かな作り手の意匠こそがアニメーションというさらなる表現において、この繊細な物語を「生かしている」のだといえよう。

  愛とは、決して単純なものではない――『イエスタデイをうたって』は、日本人が観るアニメーションという意味で、最も映像作品としての効果を発揮している物語だ。

 単純にはなれない、そして単純に生きることもできない。「演者」である彼らが舞台を降りる時、そこにはどんな愛の形が残るのだろうか。私たちは、どんな感情をそこに残して結末を迎えるのか。

 「愛とは何か」の問いに答える日が来た時、きっとアニメ『イエスタデイをうたって』の魅力をそれまで以上に感じる日はないだろう。ままならない者たちへの愛情は、美しい光景として残り続けるのだ。

※森ノ目品子の「しな」は木へんに品が正式表記

■安藤エヌ
日本大学芸術学部文芸学科卒。文芸、音楽、映画など幅広いジャンルで執筆するライター。WEB編集を経て、現在は音楽情報メディアrockin’onなどへの寄稿を行っている。ライターのかたわら、自身での小説創作も手掛ける。

■放送情報
『イエスタデイをうたって』
テレビ朝日「NUMAnimation」にて、毎週土曜深夜1:30~放送
声の出演:小林親弘、宮本侑芽、花澤香菜、花江夏樹、鈴木達央、 坂本真綾、寺島拓篤、洲崎綾、名塚佳織、堀江瞬、小野友樹、喜多村英梨、前川涼子ほか
原作:冬目景(集英社 ヤングジャンプ コミックス GJ刊)
監督・シリーズ構成・脚本:藤原佳幸
副監督: 伊藤良太
脚本:田中仁
キャラクターデザイン・総作画監督:谷口淳一郎
総作画監督:吉川真帆
音響監督:土屋雅紀
音響効果:白石唯果
美術監督:宇佐美哲也
色彩設計:石黒けい
撮影監督:桒野貴文
編集:平木大輔
背景:スタジオイースター
音響制作:デルファイサウンド
アニメーション制作:動画工房
制作:DMM.futureworks
(c)冬目景/集英社・イエスタデイをうたって製作委員会
公式サイト: https://singyesterday.com/
公式Twitter: https://twitter.com/anime_yesterday

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