伊藤健太郎、飛ぶ鳥を落とす勢いで突き進む 名刺代わりの映画3選
『惡の華』(2019年)
さて、これは伊藤健太郎の名刺代わりの一作と呼んでも過言ではない映画である。押見修造の同名マンガを原作に、『片腕マシンガール』(2007年)などの井口昇監督がメガホンを取った。描かれるのは、思春期特有の鬱屈とした精神世界だ。
伊藤と井口監督といえば、『惡の華』の約1年前に公開された『覚悟はいいかそこの女子。』(2018年)でもタッグを組んでいる。同作は、少女マンガ原作のキラキラ恋愛映画で、一方の本作はサスペンスホラーといったところ。誰もがうちに秘めたる欲望や、揺らぐアイデンティティの所在をあぶり出していく……。前者での伊藤は、恋物語の中心に立っているわけではないが、しかし、なんという振れ幅。監督と俳優、そこにある“信頼関係”がなせるわざなのだろうか。
ここまでに述べてきたことで、伊藤が硬軟自在な俳優であるということは察していただけると思うのだが、本作ではその両極端のどちらもを見ることができる。内向的な少年から、その暴走まで。彼の魅力と演技者としての力の大きさ、さらには“作品の顔”になれる器であるということが、本作で証明されているように思う。
そんな伊藤は今年、『のぼる小寺さん』『とんかつDJアゲ太郎』『今日から俺は!!劇場版』『弱虫ペダル』といった出演映画の公開を控えているし、夏には舞台『巌流島』が上演予定だ。年始に放送された『教場 後編』(フジテレビ系)に一瞬だけ姿を現したことも、さらなる続編の伏線として多くの期待の声が上がっている。彼が今まで以上に伸び伸びと表現できる年になるよう、ただ祈るばかりだ。
■折田侑駿
1990年生まれ。文筆家。主な守備範囲は、映画、演劇、俳優、服飾、酒場など。最も好きな監督は増村保造。Twitter
■公開情報
『今日から俺は!!劇場版』
7月17日(金)公開
出演:賀来賢人、伊藤健太郎、清野菜名、橋本環奈、仲野太賀、矢本悠馬、若月佑美、柳楽優弥、山本舞香、泉澤祐希、栄信、柾木玲弥、シソンヌ(じろう・長谷川忍)、猪塚健太、愛原実花、鈴木伸之、磯村勇斗、ムロツヨシ、瀬奈じゅん、佐藤二朗、吉田鋼太郎
原作:『今日から俺は!!』西森博之(小学館『少年サンデーコミックス』刊)
脚本・監督:福田雄一
配給:東宝
(c)西森博之/小学館 (c)2020「今日から俺は!!劇場版」製作委員会
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/kyoukaraoreha/