高橋一生は“語られない物語”を想像させる俳優だ 『竜の道』放送前に必見ドラマ3作品を振り返る
新ドラマの多くが新型コロナウイルスの影響で延期となり、玉木宏・高橋一生が復讐に燃える、火曜21時ドラマ『竜の道 二つの顔の復讐者』(カンテレ・フジテレビ系)も例外ではない。放送スタート日は未定のままであり、高橋一生の主演舞台『天保十ニ年のシェイクスピア』も、東京公演の最中、大阪公演を前に中止になってしまったため、尚更気を落としているファンも多いことだろう。さて、今回は数ある高橋一生出演作品の中で3作品を厳選し振り返ることで、ほんの僅かでも空白の時間を補うことができたら幸いである。
『おんな城主 直虎』(NHK総合)
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』で高橋は、柴咲コウ演じる女城主・井伊直虎を陰ながら支え、あえて「裏切り者」として死ぬことで彼女を守った井伊家家老・小野但馬守政次を演じた。
囚われ磔にされた政次を直虎自ら手にかけた第33回における、「地獄へ落ちろ、小野但馬」「やれるものならやってみろ、地獄の底から見届け(てやる)」という呪いの言葉の応酬は、上司と部下として、幼なじみとして、恋愛関係を超越した2人の濃密な信頼関係だからこそ通じ合う、賞賛と鼓舞の言葉の裏返しであった。
だからこそ、昨今の大河ドラマでは珍しい凄絶な死の光景として、また、これ以上ない愛の光景として、多くの視聴者の心に残っているのである。それは、「大河ドラマ」という素材を自由に料理した森下佳子脚本の凄みであったと共に、演者たちの凄みであったと言える。
【参考記事】
高橋一生演じる政次の死が意味するものーー『おんな城主 直虎』が描く喪失と再生
『カルテット』(TBS系)
「片想いって一人で見る夢でしょ」
『カルテット』第8話において、高橋が演じた家森諭高の台詞。同年放送の『おんな城主 直虎』の政次役と共に、高橋の人気を爆発させることになった坂元裕二脚本の傑作ドラマである。政次もまた、直虎への秘めた想いを抱きながら、言葉では欺いてばかりで「一人で見る夢」に生きていたわけだが、碁を通して、まつりごとを通して、彼らは井伊家再興を「二人で見る夢」にし、さらに昇華して「皆で見る夢」に変えたのである。
家森が前述の台詞を言った相手は、満島ひかり演じる世吹すずめだった。すずめは松田龍平演じる別府に片想いしている。そして家森はそんなすずめに恐らく片想い中だが、その感情を表に出すことはほとんどない。彼は自分のことも世界のことも、誰よりも「わかってしまう」男だからだ。片想いの人からの告白を「好きです・ありがとう・冗談です」の「SAJ三段活用」だと揶揄しつつ、すずめ相手の実演という遊びの中に本音を混ぜる。そして「冗談です」とかわす。そんな、どうにも愛おしく、切ない男である。
理屈っぽく面倒くさいヴィオラ奏者の彼がまくし立てる数々の理論は『カルテット』の代名詞とも言える「唐揚げにレモンをかけるか問題」等様々な名言を生み出した。躊躇なく壁に画鋲さしたりできない、パセリの存在を慈しまずには唐揚げを食べられない「こっち側」の人間。高橋一生にはどこか、「こっち側」の人間だと思わせる何かがある。
【参考記事】
『カルテット』この4人なら、やり直しスイッチはおさなくていいーー最終話が提示したアンサー