濱口竜介『天国はまだ遠い』から小川紗良『最期の星』まで 無料公開中の必見インディ映画を紹介

必見の無料公開中インディペンデント映画

 東京では現在、新作旧作含めて1本も映画が上映されていない。先の大戦末期では、空襲のさなかにも映画は上映されていたというから、空前の事態を迎えていることになる。初夏にかけて上映予定だった新作も、続々と公開延期が発表されている。

 一例をあげれば、5月22日公開予定だった原田眞人監督の『燃えよ剣』は、新たな公開日が決まりしだい告知されることになっているが、それはいつ頃になるのか。原田監督の個人サイトには、もう少し具体的な公開の目処が次のように記されている。

「東宝は最長で一年と言っている。私は感染の行方を見据えつつ、年内に公開できるよう働きかけるつもりです。最悪でも、日本よりも早くに終息宣言を出す海外のどこかの映画祭で、年内のワールド・プレミアを開きたい、と思っています」(引用:Web『HARADA FREAKS』

 映画との接点を見失いそうになる日々が続く中で、Webで自作の無料公開を始めた映画監督たちがいる。その一部を紹介したい。いずれも未ソフト化の秀作ばかりである。

濱口竜介監督『天国はまだ遠い』

天国はまだ遠い/Heaven is still far away (2016) from fictive on Vimeo.

 『ハッピーアワー』『寝ても覚めても』で世界的にも注目を集める濱口竜介監督は、短編の『天国はまだ遠い』(2016年)を公開中。地縛霊となった女子高生の三月(小川あん)と同棲中の雄三(岡部尚)は、三月に関するドキュメンタリーを撮っているという彼女の妹・(玄里)からインタビュー撮影の依頼が来る。

 濱口作品は少女漫画や月9みたいなシチュエーションを、角度を少しばかり変えることで全く異質の映画を生み出してしまう。本作も、ハチャメチャなラブコメで通用しそうな話を、淡々と描きながら静かに感動させてしまう手腕が冴えわたっている。

 今はあまり騒ぎたくない、静かに部屋の片隅で映画を眺めたいという気分のときに観たい1本だ。劇中、雄三がインタビューの途中で三月に憑依されて入れ替わる過程を1カットで見せるが、特別なVFXも派手な映像処理を行わなくても、カメラと俳優がいれば、映画でしか不可能な〈夢〉を映し出すことが可能になることを実感するだろう。

岩切一空監督『花に嵐』

映画「花に嵐」(The Blooming)

 日本映画監督協会新人賞を受賞した岩切一空監督の『花に嵐』(2017年)は、PFF(ぴあフィルム・フェスティバル)準グランプリならびに観客賞、カナザワ映画祭観客賞など、大型新人登場と話題を呼んだ傑作。

 大学生になり、映画研究会に入った“僕”(岩切一空)は自らにカメラを向けて日常を撮影する。これだけなら、個人映画にありがちな日記映画やセルフドキュメンタリーから一歩も出ないが、そこからあらゆる映画のジャンルへと飛躍を見せる。何もない退屈な日常が、波乱万丈の映画的な世界へと次々に塗り替えられてゆく快楽がどれだけ圧倒的かは、その類まれなセンスに満ちた映像を実際に体感してもらうしかない。ミニマムな世界から想像だにしなかった世界へと広がりを見せる本作は、今後の映画のプロトタイプになるのではないかと思わせる。

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