銀行を中心に拡大する“池井戸潤ドラマユニバース” 『下町ロケット』白水銀行を起点に考える

拡大する池井戸潤ドラマユニバース

 旧産業中央銀行を舞台にしたドラマには、この他に向井理と斎藤工のダブルキャストによる『アキラとあきら』(WOWOW)がある。産業中央銀行同期で同じ名前を持つ2人の交錯する30年間を描いた同作には『半沢直樹』前夜といった趣が漂う。

 旧東京第一銀行については、2シーズンにわたって放送された『花咲舞が黙ってない』(日本テレビ系)が有名だ。支店統括部臨店班に所属する花咲舞(杏)が行内の問題解決に奔走するドラマの原作は小説『不祥事』と続編の『花咲舞が黙ってない』で、時系列的には合併前のエピソードが中心になっている。

 ドラマと同名のタイトルを冠した原作版『花咲舞が黙ってない』は『半沢直樹』とも関連が深い一冊。所収の「湯けむりの攻防」には合併交渉の場面に半沢直樹その人が登場する。また、東京第一銀行の暗部をえぐる「汚れた水に棲む魚」には『銀翼のイカロス』で重要な役割を担う旧T(東京第一銀行)派閥の重鎮も登場する。

 ただし、これらはあくまでも小説上の趣向にとどまるだろう。現時点で『半沢直樹』新シーズンの登場人物は原作からの変更点も多く、花咲舞たちが登場する可能性は乏しい。それらも踏まえて、ドラマ版が原作の設定をどのように取り込んでいるか比較してみてもいいかもしれない。

 この他に『半沢直樹』では、三大メガバンクとして東京中央や白水とともに大同銀行の名前も登場するが、半沢の天敵である金融庁主任検査官の黒崎駿一(片岡愛之助)によって追い込まれ、破綻したとされている。

 銀行を中心にした企業社会を描く池井戸潤原作ドラマで、相互に関連するストーリーは、ゆるやかにまた緊密につながる社会のありようを表わしているようだ。魅力的な登場人物たちが銀行を介して「池井戸ワールド」のどこかで出会っている可能性も考えられる。それらに思いをはせることで物語の奥行きが増し、より味わい深いエピソードになることは間違いない。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
『下町ロケット特別総集編・第一夜』
TBS系にて、4月5日(日)21:00〜22:48放送
『下町ロケット特別総集編・第二夜』
TBS系にて、4月12日(日)21:00〜22:48放送
『下町ロケット特別総集編・第三夜』
TBS系にて、4月19日(日)21:00〜22:48放送
出演:阿部寛ほか
原作:池井戸潤『下町ロケット』『下町ロケット ガウディ計画』(小学館刊)
プロデューサー:伊與田英徳、川嶋龍太郎
演出:福澤克雄、田中健太、棚澤孝義
(c)TBS

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