『BNA ビー・エヌ・エー』は世界を見据えた意欲作に 注目を集め続けるTRIGGERの戦略

『BNA』TRIGGERなぜ注目を集める?

 なぜTRIGGERはそれほど注目を集めるのか? その特徴の1つが、オリジナル作品の多さだ。初の元請制作を行ったTVアニメ『キルラキル』以降、オリジナル作品を多く手掛けているスタジオであるが、これは前身にあたるGAINAX時代から受け継がれてきた文化の1つであると、大塚雅彦代表と今石洋之監督が『月刊MdN 2017年5月号』で語っている。オリジナル作品は大変な労力がかかるうえ、原作の知名度に頼れない以上ヒットの可能性も未知数になるが、それがTRIGGERでなければ発揮できない魅力を生み出す原動力となっている。

 『BNA ビー・エヌ・エー』もオリジナル作品だが、人間と獣人の世界を舞台とした差別が明確なテーマとなっている。世界的な関心の高い差別問題を描くことで、広い視野と深い社会批評性を内包した作品にしたいという試みが伝わってくる。

 ディズニーアニメーション『ズートピア』や、同じ「+Ultra」で放送された『BEASTARS』も同じような図式の作品であったが、2作品が草食獣と肉食獣の生態を描くことで、差別問題を描き出していたことに対し、『BNA ビー・エヌ・エー』は元人間が獣人になってしまうという差異を出してきた。この点を中心に、いかにTRIGGERらしい作品を生み出すことができるのかどうか、今後の展開を楽しみにしたい。

『プロメア』(c)TRIGGER・中島かずき/XFLAG

 TRIGGERは国内の男性アニメファン向けなスタジオという印象が強かったものの、それを覆したのが『プロメア』だろう。新千歳空港国際アニメーション映画祭にて行われたトークショーでは、事前に用意された椅子がなくなり、立ち見客が出るほどの盛況具合であったが、観客の8割が女性だったことも驚かされた。応援上映などに駆けつける熱い女性ファンを獲得することで、興行収入10億円以上のヒットを記録している。

 また『プロメア』の英語吹替版では、スタッフたちが中心となり演技の方向性などを指示しており、女性と海外という既存のファン層とは異なる人たちを取り入れる、強かな戦略を感じさせた。今回の『BNA ビー・エヌ・エー』では動物の動きも可愛らしく、子供たちからも受けいられる可能性も感じさせ、ファミリー層からも支持を得る作品になりうるのではないだろうか?

 近年『羅小黒戦記』など、中国のアニメーションの一部作品にはすでに日本アニメと見分けがつかない作品が生まれている。日本アニメはすでに国境を超え、少なくとも東アジア全体のテイストになってきている。独特なルック故に、ヨーロッパアニメーションが中心となるコンペディションなどと比べると、日本アニメはガラパゴス化しているのではないか?という声も散見される。しかしそれは、日本アニメが世界へのアピールが足りていないが故の声といえるかもしれない。日本アニメが“世界のアニメ”になるかどうかによって、今後のアニメ業界の先行きが決まる。その鍵はTRIGGERが握っている。

■井中カエル
ブロガー・ライター。映画・アニメを中心に論じるブログ「物語る亀」を運営中。
@monogatarukame

■放送情報
『BNA ビー・エヌ・エー』
フジテレビほかにて、毎週水曜24:55~25:25から順次放送
Netflixにて1話~6話独占先行配信中
声の出演:諸星すみれ、細谷佳正、長縄まりあ、石川界人、高島雅羅、村瀬迪与、乃村健次、中博史、家中宏、斉藤貴美子、多田野曜平、大塚芳忠
監督: 吉成曜
シリーズ構成: 中島かずき
コンセプトアート:Genice Chan
キャラクターデザイン:芳垣祐介
総作画監督:竹田直樹
美術監督:野村正信
色彩設計:垣田由紀子
撮影監督:設楽希
編集:坪根健太郎
音楽: mabanua
アニメーション制作:TRIGGER
(c)2020 TRIGGER・中島かずき/『BNA ビー・エヌ・エー』製作委員会

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