「週末映画館でこれ観よう!」今週の編集部オススメ映画は『ナイチンゲール』

今週のオススメ映画は『ナイチンゲール』

 階層社会・差別主義を描くことの「一歩先」を踏み込んだ、と前文で書いたが、それはつまり被差別者であるクレアが、アボリジニのビリーを差別・嫌悪しているという二重構造にある。「白豪主義」と呼ばれる原住民の差別が70年近く起きていたことは有名だろう。「差別はよくない」とスローガンとして提唱するのは簡単だが、その背後にはとても膨大な歴史やとてもミクロな生活習慣の差異、人間の心理の動きなどあらゆるものが蠢いている。「精神を凌駕することのできるのは習慣という怪物だけなのだ」というのは三島由紀夫の名言だ。

 本作に出てくる登場人物は皆何かに怯えている。それは本作の悪役と言えるホーキンスもまたしかりだ。前半に上司から厳しい叱咤を受け、栄転に失敗する様、命令に従わない部下たちの様子が描かれていることは興味深かった。ホーキンスと同じく罪を犯すホーキンスの部下や少年もまた、苛立ちを募らせるホーキンスに見捨てられないよう我を失ってしまう。怒りや暴力がトップダウンで降りていくのだ。

 そんな暴力が永遠と続く本作において一縷の希望とも言える存在が原住民・ビリーである。決してユーモアを忘れず、人や自然を愛し、差別するクレアに対しても手を差し伸べる優しさを持ちわせた存在だ。また個人的には、本作における音楽への使い方も印象が強い(クレアは歌手であり、ビリーも原住民の歌をよく口ずさむ)。実際、クレアを演じたアイスリング・フランシオシはオペラ歌手としてのキャリアも持ち、ビリーを演じたバイカリ・ガナンバルもダンサーとして各所を回っている。ケント監督にとっても重視した部分だったのだろうか。終盤、お互い言語が違う歌を歌うことで繋がるさまは美しく、感動的なシーンだった。

 一見凄惨な映画に思えるが、そこに止まらない活劇的な面白さも含めて、ポジティブなメッセージも込められている作品だ。差別構造を指摘することから一歩踏み込んだ先を描いているという点で、今観るべき映画なのではないだろうか。

■公開情報
『ナイチンゲール』
3月20日(金)ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー
監督・脚本:ジェニファー・ケント
製作:クリスティーナ・セイトン、ブルーナ・パパンドレア
音楽:ジェド・カーゼル
出演:アイスリング・フランシオシ、サム・クラフリン、バイカリ・ガナンバルほか
配給:トランスフォーマー
2018年/オーストラリア・カナダ・アメリカ合作/英語/136分/原題:The NightingaleI/日本語字幕:額賀深雪
(c)2018 Nightingale Films Holdings Pty Ltd, Screen Australia, Screen Tasmania.
公式サイト:www.transformer.co.jp/m/Nightingale/
公式Twitter:@nightingale_JP

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