映画『キャッツ』の悪評は妥当なのか? 小野寺系が作品の真価を問う

『キャッツ』の酷評は妥当なのか?

 本作では、様々な猫が現れる抽象的なストーリーから、各々の猫の生き様を描き出している。最後のシークエンスで、“猫は犬にあらず”と宣言されるように、猫は比較的プライドが高く、自立した態度をとる生き物だ。ジェリクルキャッツは、群れに忠誠を誓うような集団ではなく、自分の力と独自の考え方で生きる、それぞれの猫たちが寄り集まった、異端の集団なのである。だから、一匹一匹が魅力的で、個性が光っているのだ。それは、ある種の人間の生き様や美学を暗示しているともいえよう。

 そのなかで、なぜ“あるキャラクター”が天上に昇る資格のある猫として指名されたのか。それは、その猫が、集団のなかで蔑まれていた、やはり異端的な存在だったからだろう。豊かな生活や、道徳からも離れ、貧しく孤独に生きる者。そのなかに誰も犯すことのできない美しさや誇りを秘めている者こそが、ゴミ捨て場のなかで気ままに生きているジェリクルキャッツそのものを体現する存在である。それは、その歌声が誰よりも美しく響いたことが証明している。

 このようなテーマを強調するのが、楽曲「ビューティフル・ゴースト」だ。アンドリュー・ロイド=ウェバーとテイラー・スウィフトが本作のために書き下ろし、劇中でヴィクトリアが歌っている新曲である。それは、ヴィクトリアの孤独に生きる者への優しいまなざしと、人生(猫生)の素晴らしさや美しさを見出すことの重要性を表している。これによって本作の描いた、猫が示す“誇り高く生きる”というメッセージが引き立っているのだ。

 このような点を見ていくと、美点や弱点が混在する本作は、鑑賞者の見方によって評価が大きく左右されることになるだろう。とはいえ総合的には、これを上回る『キャッツ』を作りあげるのは至難の業であることも確かなはずだ。仮にジェリクルキャッツのヴィジュアルをよりナチュラルなものにしたところで、様々な障害がある題材を、前述したような挑戦や工夫を積み上げて、ここまでかたちにしていくのは、かなり厳しいはずだからである。少なくとも、見るべきものがない作品では絶対にない。

 重要なのは、極端な悪評、もしくは絶賛評が出回っていたときに、それを鵜呑みにして強い先入観を持つと、作品への理解を阻害しかねないということである。『キャッツ』は、今回の騒動も含め、その大事なことを教えてくれる映画だといえる。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『キャッツ』
全国公開中
監督:トム・フーパー
脚本:リー・ホール、トム・フーパー
製作総指揮:アンドリュー・ロイド=ウェバー、スティーヴン・スピルバーグ、アンジェラ・モリソン、ジョー・バーン
原作・原案:T・S・エリオット、アンドリュー・ロイド=ウェバー
出演:ジェームズ・コーデン、ジュディ・デンチ、ジェイソン・デルーロ、イドリス・エルバ、ジェニファー・ハドソン、イアン・マッケラン、テイラー・スウィフト、レベル・ウィルソン、フランチェスカ・ヘイワードほか
配給:東宝東和
(c)2019 Universal Pictures. All Rights Reserved.
公式サイト:https://cats-movie.jp/
公式Twitter:@catsmovie_jp

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