立川シネマシティ・遠山武志の“娯楽の設計”第42回
映画館の予告編は長すぎる? サブスクリプションの浸透にともなう広告モデルの変化
映画館の「広告宣伝」いつまでもつ?
ただ、アニメだからアニメ作品の予告ばかり、ミュージカルだから音楽系作品ばかり、壁ドン胸キュン映画だからそれ系ばっかりの組み方では、ざっくりすぎると思います。こういうのはいわゆるネットショップの自動で表示される「おすすめ商品」とか「この商品を買われた人はこれも合わせて買っています」的で、大きな失敗はなくても面白みに欠けます
出演者が共通している、制作陣が共通しているのは当然として、ジャンルを越えてもテーマが共通している、インスパイア関係にある等、映画ファン的視点を持ち込むと、予告編もエンタテイメントに出来ます。シネマシティは「映画ファンのためのシネコン」を標榜しているので、可能な限りこの手のネタを仕込んでいます。
映画の予告編はまだいいけど、「シネアド」と呼ばれる映画と関係ない企業CMや映画館の売店商品や会員勧誘CMがイヤだ、という方も多いでしょう。そこそこ長期間に渡って同じものが流され続けることもあって、ストレスを感じやすいものではあります。それこそ「タケモトピアノ」のように、十何年も続ければそれはそれで、その映画館になくてはならないモノのひとつにもなるかも知れませんけど。
……実際、20代の方はご存知ないかも知れませんが、フィルム上映時代、つまり2010年頃までは、昭和にタイムスリップしたみたいなCMがよく流れたものです(笑)。田舎だけの話じゃないですよ、日比谷のあそことか、渋谷のあそこでも。
さてこれらを踏まえて、そろそろ今回取り上げるテーマの本質にせまっていきます。テレビでCMが流れるのが当たり前ということもあって、映画でもなにかしら宣伝がついてくることにさほど違和感を覚えることはありませんが、この感覚、果たしていつまでもつの? というのが僕の疑問です。
テレビよりもネットを見ている時間がどんどん右肩上がりに増えてきていて、そっちの感覚のほうが一般的になりつつあるのが現状です。いや、YouTubeでもCMバンバン流れるでしょ、と反論があると思いますが、それは無料視聴の場合です。
いわゆる「広告モデル」と言われる、観たり聴いたり使ったりは無料、ただし広告入ります、というのがネットのサービスの主流です。テレビもこのパターンですね。とりわけ映像を観るということに関しては、まだまだこの「広告モデル」利用者が圧倒的主流なので、今のところほとんど誰も問題にしていないかも知れませんが、じわじわと「サブスクリプションモデル」が浸透しても来ています。
ネットの感覚だと「課金すれば広告排除」が一般的です。アプリでも音楽でも同様ですね。YouTubeもプレミアムに入会すれば、広告は入りません。Netflixやhuluも同様です(ただしAmazonプライム・ビデオは番組CMとか予告編が入るんですよね。これは特別に会費が安いからでしょうか?)。この感覚が浸透してくると、映画館というのは入場料を取る「課金サービス」なわけです。予告上映時間が長いとか短いとかいう以前に、広告の存在自体に疑念が生まれてきます。
一般的に「え、課金しているのに、なんで広告流してるの?」となるのに、どれくらいの期間が残されているでしょう。最近はほとんど見ない気がするのですが、以前はセルのDVDやビデオに、その作品のものではない、宣伝の予告編が入っていることがありました。これは最初から相当違和感がありましたね。何千円か出してこっちは買っているのに、なんで関係ない予告編が入っているのかと。
レンタル商品ならまだわかるんですよ。たった数百円で観られているわけだし。でもセルはダメでしょう。これは当時もかなり評判が悪かったので、なくなってきたのだと思います。……ただ、正直これも今、15年とか20年経って見直してみると、むしろ時代を感じられてありがたい気もしてくるのは、映画ファンの悲しい性なんでしょうか(笑)。
10年もさかのぼれば、映画の予告編をちゃんと見られる場所は、ほとんど映画館でだけでした。テレビでも流れましたが、それは30秒とか長くて60秒とか、短いものです。なので映画館での予告編は映画ファンにとって超貴重な情報源だったのです。テレビで流れるようなのは、たいてい大作モノですしね。特に渋谷や新宿、日比谷や銀座あたりのミニシアターが集中してあった地域では、バーターで近隣他館の作品の予告も流していたので、20分くらい予告があるのが当たり前でしたが、どんな情報も見逃すまいと目をこらしていたものです。
ですが、ここ7~8年で、それこそYouTubeの普及によって、パソコンやスマホでいつでも予告編が観られるようになったわけです。映画の宣伝は大きく様変わりしました。ですので同じモノを観せられる、という話題で言えば、同じ劇場ではなかったとしても、観たことがあるものばかり見せられるという状況にもなり得るわけです。
その作品を観に来ているお客様に合わせた予告編成の話で言えば、表面的な単純編成では、そこにいるお客様はすでにその予告編をネットで観ている可能性が高いということです。これでは、あまり宣伝になっていません。そしてこういう状況だと、シネアドが悪目立ちし始めるわけです。「課金は広告排除」感覚の促進につながります。