細田守と新海誠は、“国民的作家”として対照的な方向へ 2010年代のアニメ映画を振り返る評論家座談会【前編】
山田尚子監督と京都アニメーション
杉本:僕は10年代が実質始まったのは震災以降だと思っているんです。2011年は、『魔法少女まどか☆マギカ』『あの花』『Fate/Zero』『映画けいおん!』と重要な作品が多数出てきた年でした。特に『けいおん!』の山田尚子監督は10年代の作家として外せない人です。渡邉さんは、よく「映画はアニメっぽくなり、アニメは実写映画っぽくなっている」ということを論じておられますが、それが急速に進行したのがこの10年で山田監督は象徴的な人だと思います。山田監督はそういう時代だからこそ出てきた作家ではないでしょうか。山田監督はカメラの使い方が非常に実写的で、『リズと青い鳥』はシネフィルからも評価が高かった。描いてる世界が確立しているし、作家としてわかりやすい個性があるので、評価しやすい存在です。
藤津:京都アニメーションがずっと力を蓄えてきた成果ですね。インタビューで山田監督は「『リズと青い鳥』は、すごく繊細な作品をこれまでも作ってきたスタッフだからできるんだ」と話されており、スタッフに対する信頼が厚い。アニメーションはスタッフの流動性が高いですが、スタジオが持つ力がすごく大きいと思います。
渡邉:杉本さんの「アニメと実写の接近」という話で言うと、2015年~2016年に自分の中でアニメの見方が一気に変わった感覚がありました。そもそも映像は、非常に身体的なメディアです。つまり、映像作品には物語映画のリズム、ドキュメンタリーのリズム、アニメのリズム……というように、異なる複数のリズムがあり、映像の快楽というのはそのリズムに身体を同期させることだと思います。それ以前からも、もちろんアニメも見ていましたが、僕はどちらかというと実写映画のリズムが気持ち良い体質だったのですが、『聲の形』や『この世界の片隅に』で、映画とアニメのリズムがどこか連動し始めたという実感がありました。
杉本:実写映画とアニメのリズムが同期してきたことと、田中将賀さんの絵が人気を獲得し始めたことが時を同じくしているのは興味深い点です。00年代まではオタク的なものとジブリ的なものが分かれていたけれど、10年代からはフラットに融合し始めている時期なのかなと。我々の身体感覚そのものがアニメに近づいているのかもしれません。
藤津:『聲の形』もヒロインの硝子の髪の毛はピンク色でした。アニメらしいキャラクター作りをどこまでやるか吟味されている一方で、ディテールの情報量、何よりお芝居の繊細さとリアリティで、「この人はこの空間に立っている人なんだ」ということを表現しようとしていて。昔は記号的なものは記号的に描かれたほうが気持ち良いと思われていましたが、2016年にそれが越えてきた例がいくつかあるんですよね。『君の名は。』は作画監督がジブリ出身の安藤雅司さん、『天気の子』もジブリ出身の田村篤さんですので、記号的なものと、ジブリがやってきた“もっともらしさ”みたいなものを繋ぎ合わせる感じになってきたのかなと。
渡邉:実写(リアリズム)とアニメ(記号的なもの)の接近は、実写、アニメ双方で岩井俊二や庵野秀明などの作品を象徴におそらく90年代くらいからあったのかもしれません。そして、まさにその岩井俊二監督が2015年に『花とアリス殺人事件』でロトスコープを使ってアニメーションを作り、2016年には庵野監督が『シン・ゴジラ』を作ったように、あの頃からリズムがシンクロしてきたという実感があり、時代が変わってきているように感じました。
■発売情報
『天気の子』
2020年5月27日(水)Blu-ray&DVD発売
キャスト:醍醐虎汰朗、森七菜、本田翼、吉柳咲良、平泉成、梶裕貴、倍賞千恵子、小栗旬
原作・脚本・監督:新海誠
音楽:RADWIMPS
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:田村篤
美術監督:滝口比呂志
・Blu-ray コレクターズ・エディション 4K Ultra HD Blu-ray 同梱5枚組(初回生産限定)
TBR30000D
¥12,000+税
・ Blu-ray スタンダード・エディション
TBR30001D
¥4,800+税
・DVD スタンダード・エディション
TDV30002D
¥3,800+税
発売元:STORY/東宝
販売元:東宝
(c)2019「天気の子」製作委員会