細田守と新海誠は、“国民的作家”として対照的な方向へ 2010年代のアニメ映画を振り返る評論家座談会【前編】

2010年代アニメ映画評論家座談会【前編】

“ジブリじゃない”絵が一般性を獲得

渡邉:ところで、先ほどの藤津さんの「2012年に最初の地殻変動があった」というお話は非常に興味深かったです。ここ最近は、2010年代のアニメ映画は2016年が大きな転換点だったという主張がよくされるので、そうした見取り図を相対化する意味でも目から鱗でした。それは翌年の2013年に宮崎駿の『風立ちぬ』と高畑勲の『かぐや姫の物語』が公開されて、実質的にジブリが退いていく流れとも関係していそうですね。

『君の名は。』(c)2016「君の名は。」製作委員会

藤津:そのように考えると見やすいかなと。2016年ももちろん非常に重要で、『君の名は。』はいわゆる“ジブリじゃない”キャラクターデザインが一般性を獲得できるとわかった作品です。それ以前の新海監督の『星を追う子ども』では、キャラデザをテレコム・アニメーション・フィルムや日本アニメーションの絵柄に近い西村貴世さんが手がけています。長年、一般的な作品では“ジブリっぽい絵柄”が参照されていましたが、『新世紀エヴァンゲリオン』の貞本義行さんが細田作品に参加して、オタクと一般層の両方にウケるデザインができる唯一の人という感じが何年かありましたが、田中将賀さんが加わって、少しずつそこの領土が拡大していきましたね。

渡邉:田中将賀さんの絵柄は、本当に2010年代を決定づけましたね。田中さんの絵がこれだけメジャーな支持を獲得できたのは、なぜだったのですか?

杉本:『君の名は。』の前に、『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』がヒットしました。数字にはあまり出ませんが、やはり若い人たちは日常的に深夜アニメを目にしていて、年長世代が想像するよりもずっと田中さん的な絵に馴染みのある状態になっていた。田中将賀さんの絵は既に若い世代にとって“違和感のない絵”になっているでしょうね。

藤津:田中将賀さんの絵は確かにアニメ感はあるけれど、一方でもっとコテコテに“アニメっぽい絵”というものがあって、ある意味うまくあく抜きされています。なので体験の描き方にしても、リアリズムを感じるものになっている。特に『君の名は。』は安藤雅司さんが作画監督をされたので、田中さん自身が手がけた作品よりも更にリアリティが強くなっています。いわゆるアニメっぽい絵を目指すのであれば、『空の青さを知る人よ』の主人公は眉毛はあんなに濃くならないと思うんです。

『空の青さを知る人よ』(c)2019 SORAAO PROJECT

唯一無二の作家性をもつ湯浅政明

――湯浅政明監督はいかがでしょう。『夜明け告げるルーのうた』のアヌシー国際映画祭グランプリはこの10年間で輝かしい成績の1つかなと思います。

渡邉:湯浅監督は、2004年に『マインド・ゲーム』を発表し、フランスなど海外では熱狂的な支持を獲得していきますが、その後10年以上長編の発表がない状況が続いていました。しかし、2010年のテレビアニメ『四畳半神話大系』を経た2017年公開の映画2作でブレイクした後、コンスタントに意欲作を発表し、まさに2010年代を代表する作家の一人になりましたね。

藤津:湯浅監督は、ものすごい個性がありますよね。その上で、「一般って何だろう」「普通って何だろう」といった問いかけを重ねることで作品を前進させていって、そこに森見登美彦さんの原作と出会ったことで『四畳半神話大系』『夜は短し歩けよ乙女』でのブレイクになった。おそらくそこが第2のスタートだったと思います。それからは映画2本やった後『DEVILMAN crybaby』があり、『きみと、波にのれたら』『映像研には手を出すな!』『SUPER SHIRO』『日本沈没2020』『犬王』と今後も途切れることなく作品が続いていきます。

渡邉:『DEVILMAN crybaby』は、舞台が川崎で、ヒップホップ文化やアンダーグラウンド、下層社会の問題を、人間と悪魔という存在で隠喩しています。また、『夜明け告げるルーのうた』がアヌシーの記者会見で、「これは移民排除の話ですか?」と言われたという話も聞きました。湯浅監督の作品には、社会派の側面がありますよね。

『夜明け告げるルーのうた』(c)2017ルー製作委員会

藤津:『ルーのうた』は、人間とうまく交われない相手との異種間コミュニケーションという部分が、今の時代と共鳴して移民の話にも見えます。『DEVILMAN』の時は、「最後の9話で、美樹がみんなに対してメッセージを出すところが成立すればこの作品はいけると思った」と言っているんですが、あのシーンはSNSの文字を画面で見せる演出で、テキストベースで進行します。一方の『ルーのうた』には自由奔放なダンスシーンがあったりと、まったく違うことをやっていて、湯浅さんにはまだまだ引き出しがあるんだなと。

渡邉:メディアとの関係でいうと、『ルーのうた』は動画サイトが象徴的に出てきますし、『DEVILMAN』は地上波ではなかなかやれない作品を流す場としてのNetflixというプラットフォームの存在意義も浮かび上がらせたように思います。

藤津:それまでもNetflixには日本産のアニメがありましたが、本格的にアニメをやるというときの最初のタイトルだったので、象徴的な作品になりましたよね。

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