『いだてん』の“オチ”は私たちが現実でつけるしかない SNSで熱狂的に語る人が絶えない理由

『いだてん』、なぜ人々は熱狂的に語る?

 そして時代はキナ臭い方向へと流れていく。二・二六事件では田畑が働く朝日新聞本社が陸軍に占拠され、その時、田畑は自分たちがオリンピックに夢中で、見て見ぬふりをしてきた暴力的な現実を目の当たりとする。

 同時に印象的だったのは、志ん生が逃げるように高座から立ち去り「あの時代の話はダメだな。笑いになんねぇや」と言う場面。その姿は、あらゆることを「笑えるお噺」に落とし込んできた宮藤の語り口、それ自体が圧倒的な現実を前に敗北する姿を描いているように見えた。

 3.11以降、宮藤は、東日本震災に象徴される圧倒的な現実を前に、娯楽は果たして必要なのか? と問いかけてきた。娯楽とは時に笑いであり、時にアイドルや芸能であり、この『いだてん』においては落語でありスポーツでありオリンピックだ。

 第二部では、東京オリンピックを翌年に控えた私たちにとって既視感のある出来事が次々と起こる。「こんな時だからこそオリンピック」と言う嘉納治五郎の言葉に呆れながら田畑も五輪誘致に尽力するが、やがて返上を余儀なくされる。

 おそらく今の私たちの心境としては来年の東京オリンピックは、戦後復興とシンクロした1964年のアレよりも、政治状況を鑑みても1940年のソレと近いのではないかと思う。この第二部からSNSでの盛り上がりも大きく過熱していったが、それは他人事と思えないという気持ちを持った人が多かったからではないかと思う。

 逆に40話以降の戦後編を、どう受け止めていいのか自分にはまだわからない。ドラマとしてはもちろん面白かったのだが、ここで描かれたことをはっきりと理解できるようになるのは、来年の東京オリンピックを終えた後ではないかと思う。

 そんなことを考えていたら、『あまちゃん』で主演を務めた、のん(能年玲奈)が、2020年オリンピックの岩手県聖火ランナーに選ばれたというニュースが入ってきた。何とアクロバティックな超展開だろうか。『あまちゃん』も『いだてん』も、ドラマが終わっても各登場人物の日常が続いているような開かれた手触りが残っていたが、まさか現実の方がフィクションに寄せて来るとは。

 是非とも『あまちゃん』のキャラクターで『いだてん』の続編『あまてん』を制作してほしい。というのは冗談だが、結局このお噺のオチは、私たちが現実でつけるしかないのだろう。だからこそSNSで熱狂的に語る人が絶えないのである。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
『いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)~』総集編
[NHK総合]
12月30日(月)
午後1:05~3:20 〈第1部〉前・後編
午後3:25~5:40 〈第2部〉前・後編
[NHK BSプレミアム]
1月2日(木)
午前8:00~10:15 〈第1部〉前・後編
1月3日(金)
午前8:00~10:15 〈第2部〉前・後編
作:宮藤官九郎
音楽:大友良英
題字:横尾忠則
噺(はなし):ビートたけし
出演:阿部サダヲ、中村勘九郎/綾瀬はるか、麻生久美子、桐谷健太、斎藤工、林遣都/森山未來、神木隆之介、夏帆/リリー・フランキー、薬師丸ひろ子、役所広司
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/idaten/r/

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