『G線上のあなたと私』に込められた「女はつらいよ」の数々 MVPは松下由樹演じる主婦・幸恵さんへ
「男もつらいけど女もつらいのよ」
矢野顕子さんが「ラーメンたべたい」の中で歌ったように、女も、なかなかつらい。
先日最終回を迎えた『G線上のあなたと私』(TBS系)には、すべての年代における「女はつらいよ」が詰まっていたように思います。
20代。寿退社直前に婚約破棄され、無職となりなかなか再就職できない也映子(波瑠)。恋人が去り、人生を捧げてきたバイオリンも病気で弾けなくなる眞於先生(桜井ユキ)。夢だった美容師になれた矢先に双子を妊娠し、もう仕事に戻れないかもしれない不安を抱える也映子のいとこの晴香(真魚)。
40代。ピアノのあるステキな一軒家に暮らし、かわいい娘がいて、でもイヤミな姑と同居し、夫が浮気したというモヤモヤを抱えている幸恵さん(松下由樹)。
70代。美しさがアイデンティティだったのに、病で体がマヒして、メイクもできない、ひとりで着替えることもできない幸恵さんの姑の由実子(夏樹陽子)。
美人でも、恋人ができても、婚約しても、夢の職業につけても、結婚しても、子どもができても、孫ができても、ステキな家に住めても、つらい。外からは「いいこと」がたくさんに見えてもつらい。ひとつずつ解決していっても歳を重ねていくと新たな「つらい」がぼこぼこと現れて、いくつになってもつらい。努力してもどうにもならないことばかり、だとしたらどうしたらいいの? と途方にくれた先のひとつの答えとして、「大人のバイオリン教室」がありました。
ショッピングモールで偶然聴いた眞於先生の「G線上のアリア」をきっかけに、バイオリン教室に通い始め、その楽しさで徐々に癒されていく也映子と幸恵さん。そこは、何歳でも、男女どちらでも、どんな立場でも対等に「音楽が好き、バイオリンが好き」だけでつながれる、夢のような空間と時間。教室や自主練のカラオケルームで、也映子も幸恵さんも理人くん(中川大志)も、口喧嘩しながらいつもニコニコと幸せそうで、ここにいればその間だけでも「つらい」は訪れないのだなあと思っていたら、なんと、いちばん大きな「つらい」こと、8歳年下の理人くんとの予想外な恋が也映子を待っていた。ふたりきりの恋には発展させずに、バイオリン仲間3人のぬるくて優しい関係の方のままがいいと、その先に進めない也映子の背中を押したのは、幸恵さんでした。
「ゆるくて優しい世界にとどまってちゃダメよ。本当に大事な人とは、ゆるくて優しい世界のその先に行かなきゃ」
つらくても投げ出したくても、彼女は家族との関係からは逃げない。この先に「つらい」がまた待っていることも知ってる。バイオリン教室のような楽しい経験は、そんなときに思い出すためにあるんだと言う幸恵さん。そう、バイオリン教室と3人の楽しい毎日は「つらい」から逃げるための優しい世界ではなくて、その先もずっと逃れられない「つらい」と、共に生きるためにあったのでした。