なぜ会話劇ドラマに魅せられる? 『俺の話は長い』『G線上のあなたと私』『ブラック校則』をもとに考える
おしゃべりが生み出す「家族」「恋愛」「闘争」
用事ならアプリなどでメッセージを交わすだけで事足りるし、SNSでコミュニケーションを楽しむことができる。だが、人と人が対面して行うおしゃべりはコミュニケーションの根幹ともいえるものだ。他愛のない話題で笑い、時には意見を交わし、そして感情と本音をぶつけ合う。
3作品を見ていると、おしゃべりは「連帯」を生み出していることがわかる。普段は立場や住む環境が異なっていて交わらないような人同士でも、おしゃべりによって通じ合うことができるようだ。
『俺の話は長い』では、満と姉の夫・光司がおしゃべりによって連帯を深め、「ニートブラザーズ」が爆誕してしまった。難しい年頃の春海も満に信頼を寄せているようだ。『G線上のあなたと私』では、元OLで無職の也映子と専業主婦の幸恵というが意気投合し、おしゃべりを通じてシスターフッド(女性同士の連帯)を築いている。こちらは理人を含めて「バイオリン三銃士」だ。『ブラック校則』では、クラスでの立ち位置やキャラが違う創楽と中弥がおしゃべりを通じて絆を深めている。残念ながらコンビ名はない。
そして、おしゃべりの延長線上に、『俺の話は長い』では「家族」が、『G線上のあなたと私』では「恋愛」が、『ブラック校則』では「闘争」が生み出された。
『俺の話は長い』では、これまで離れて暮らしていた家族が改築をきっかけに一つ屋根の下に集まって暮らすようになり、食卓を囲んでおしゃべりをすることで、より家族としての絆を深めつつあるように見える。『サザエさん』(フジテレビ系)を見ればわかるとおり、「家族」というテーマと「食卓」と「おしゃべり」は切り離せないもので、『カルテット』(TBS系)や『anone』(日本テレビ系)という一連の坂元裕二脚本作品では、血のつながらない他人同士が食卓を囲んで行う他愛のないおしゃべりによって擬似家族のような存在になっていた。
『G線上のあなたと私』では、バイオリンのレッスンやおしゃべりを通じて也映子と理人は(本当に少しずつではあるが)距離を縮めていく。わざわざ相手の家や居酒屋にも足を運んで、おしゃべりすることもある。本来は誰とも喋らなくても楽しめるカラオケボックスや、メッセージアプリやSNSを使うためのスマホでおしゃべりが繰り広げられるのも象徴的だ。それだけこのドラマがおしゃべりを重要視している証明だろう。
『ブラック校則』では、校則でスマホもSNSも禁止されている中、おしゃべりから生まれたラップが闘争の手段になる。創楽はたどたどしいが、中弥は器用にラップをこなし、吃音症で口を閉ざしていた東(達磨)は自作のトラックに乗せたフリースタイルラップで感情を爆発させる(映画版でも彼のラップが登場する)。町工場で働く井上(光石研)と外国人労働者たちがラップで工場長に待遇改善を迫るというシーンもあった。
会話劇が中心のドラマが増えた背景には、良質な会話を書くことができる脚本家の存在とそれを演じる俳優たちへの信頼がある。制作費の削減も関係しているのかもしれない。
作劇に関して言えば、いまどきの人々は突飛な行動はなかなか起こさないことも理由のひとつではないだろうか。家族同士でケンカになったとしても取っ組み合いにはならないし、誰かにプロポーズしようとして走ってくるトラックの前に飛び出したりもしない。学校に腹を立てても校舎の窓ガラスを壊してまわったりもしない。それが今の時代のリアリティである。登場人物たちが突飛な行動を起こすのは、刑事ものや医療もの、あるいは『今日から俺は!!』や『3年A組 ―今から皆さんは、人質です―』(ともに日本テレビ系)のように物語の枠組みや設定が突飛なものだけである。このような背景の中で、日常の会話に着目したドラマが増えてきたということなのだろう。
おしゃべりは他人とかかわることであり、かかわろうとする意志でもある。満はニートだけど家族とは積極的にかかわろうとするし、也映子は結婚が破談になって傷ついていたが幸恵と理人には臆せずに話しかけていた。創楽は中弥とのおしゃべりを支えにして、希央(モトーラ世理奈)を助けるために立ち上がることができた。スマホやSNSでコミュニケーションが完結しがちな昨今ではあるが、だからこそ今後もおしゃべりを通して人と人とのかかわりや感情の細やかな機微を描き出そうとするドラマは増えていく予感がする。
■大山くまお
ライター・編集。名言、映画、ドラマ、アニメ、音楽などについて取材・執筆を行う。近著に『バンド臨終図巻 ビートルズからSMAPまで』(共著)。文春オンラインにて名言記事を連載中。Twitter。
■放送情報
土曜ドラマ『俺の話は長い』
日本テレビ系にて、毎週土曜22:00~22:54放送中
出演:生田斗真、安田顕、小池栄子、清原果耶、原田美枝子
脚本:金子茂樹
演出:中島悟、丸谷俊平
プロデューサー:櫨山裕子、秋元孝之
チーフプロデューサー:池田健史
主題歌:関ジャニ∞「友よ」
創作協力:オフィスクレッシェンド
制作著作:日本テレビ放送網
(c)日本テレビ
公式サイト:https://www.ntv.co.jp/orebana/
火曜ドラマ『G線上のあなたと私』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:波瑠、中川大志、松下由樹、桜井ユキ、鈴木伸之、真魚、滝沢カレンほか
原作:いくえみ綾『G線上のあなたと私』コミックス全4巻(集英社マーガレットコミックス刊)
脚本:安達奈緒子
演出:金子文紀、竹村謙太郎、福田亮介
チーフプロデューサー:磯山晶
プロデューサー:佐藤敦司
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/gsenjou/
『ブラック校則』
【映画】全国公開中
【ドラマ】Huluにて配信中
出演:佐藤勝利(Sexy Zone)、高橋海人(King & Prince)、モトーラ世理奈、田中樹(SixTONES)、箭内夢菜、堀田真由、葵揚、水沢林太郎、成海璃子、片山友希、吉田靖直、戸塚純貴、薬師丸ひろ子、でんでん、光石研、星田英利、坂井真紀ほか
脚本:此元和津也
監督:菅原伸太郎
プロデューサー:河野英裕、長松谷太郎、大倉寛子
企画製作:日本テレビ/ジェイ・ストーム
制作プロダクション:AXON
配給:松竹
(c)2019日本テレビ/ジェイ・ストーム
公式サイト:bla-kou.jp