『殺カレ死カノ』『シグナル100』など話題作続々出演 恒松祐里、複雑な10代の心境を体現する演技力

恒松祐里が体現する、10代の複雑さ

 2010年代の日本映画界を象徴する少女漫画の実写化をはじめ、近年青春ドラマからスリラー作品まで幅広いジャンルで学校を舞台にした映画やドラマが作られているだけあって、生徒役を演じることができる10代後半から20代前半の俳優はまさに群雄割拠の状態がつづいている。アイドルやモデルから俳優業へ転身したり、登竜門的作品やコンテストを経たり、彗星のごとくいきなり主演を飾ったりと、それぞれのステップがある中で、意外にも子役時代から堅実なキャリアを積み上げてきた俳優というのはあまり多くない印象を受ける。ましてや、90年代中ごろと2010年ごろにあった子役ブームのちょうど狭間の世代ともなれば尚更だ。

『アイネクライネナハトムジーク』(c)2019「アイネクライネナハトムジーク」製作委員会

 しかしながら恒松祐里は、その流れに抗うかのように子役から着実にステップアップを遂げ、安定したポジションを維持しつづけている稀有な女優である。2005年に当時6歳でデビュー以来、数え切れないほど多くのオーディションを経験して様々な役を勝ち取ってきた彼女は、まさに若手女優随一の努力型女優といえるだろう。そんな彼女が一躍飛躍を遂げたのは芸歴10年目を迎えた2015年。新垣結衣が主演を務め、葵わかなや佐野勇斗らと共演した『くちびるに歌を』や、NHKの連続テレビ小説『まれ』、そして月9ドラマ『5→9〜私に恋したお坊さん〜』(フジテレビ系)では石原さとみ演じる主人公の妹役を演じるなど、立て続けに大役に抜擢され、注目の若手女優のひとりとして名を連ねることになった。

 ちょうど時同じくして、前述したような若手俳優が大挙出演する作品がトレンドとなると、どんな役柄でも果敢にチャレンジしていくことで勢いをつける同世代の俳優たちをよそに、彼女は独自のポジションを確立することになる。それは、“気の強さ”と“脆さ”を共存させた複雑なティーンエイジャーというキャラクターだ。例えば髪を金髪にして挑んだ『サクラダリセット』で演じた、特殊な能力を持ちながらヘビーな過去を抱える岡絵里役であったり、原作のイメージをほぼ完全に再現して、友情を超えた感情に苦悩するサブヒロインの筒井まり役を演じた『虹色デイズ』。そして今年春に放送された『都立水商!〜令和〜』で演じた真中希海役もまた、その流れに沿った役柄であったといえよう。

『凪待ち』(c)2018「凪待ち」FILM PARTNERS

 もはやこのような極端な二面性を持った役柄を演じさせれば、同世代で恒松の右に出る者はいないのではないだろうかというぐらい、このタイプの役柄がハマる。ツンとして取っつきづらいようでいて、ふとした瞬間に影を帯びた表情を見せ、知れば知るほど誰よりも深いバックグラウンドを有するキャラクターは、おそらく彼女のキャリアの長さと積み上げてきた努力の賜物ではないだろうか。もちろん、シンプルに気の強さだけが押し出された“陽”タイプな『3D彼女 リアルガール』での役柄も魅力的ではあるし、『凪待ち』での“陰”の部分を突き詰めた役柄、さらには『散歩する侵略者』でのどちらにも定まらないが底知れぬ破壊力を持った空気感もしかり。いずれにしても、同世代の俳優たちとの共演で相対的に際立てられてきた存在感が、これまでで最も充実した2019年に絶対的なものへと転化したことは言うまでもない。

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