『シン・ウルトラマン』はどんな内容に? 庵野秀明×樋口真嗣のこれまでの作品から考える

 じつは、『ウルトラマン』にもこのような神秘的な裏設定というのが根強く残っている。それが、「ウルトラマンは“弥勒菩薩”である」という説だ。その根拠は、美術スタッフの成田亨が、広隆寺の弥勒菩薩像の表情に見られる“アルカイックスマイル”をウルトラマンの顔のデザインにくわえたことを明らかにしたことに由来する。ここから派生して、「ブッダの死後、56億7千万年後に現れ、現世に救済を与える」という弥勒菩薩の伝説と、数百万光年離れたM78星雲からやってきて地球の人々を救うウルトラマンが重なるという説が噂されたことがあるのだ。

 このような、“妄想”にも近い説に異様な魅力を感じる人たちがいるというのは、そういった目で見直すことで、従来のウルトラマンの設定に、新たな裏付けや深読みの余地が生まれ、シリーズを再度新鮮に楽しむことができるからではないだろうか。そしてゴジラ同様に後のクリエイターが、それを新しいシリーズ作品の設定に正式採用してしまうことも可能なのである。

 『新世紀エヴァンゲリオン』で印象深い点のひとつに、旧約聖書をはじめとする様々な既存のモチーフが散りばめられていたことが挙げられる。父を殺し母と交わるという運命から逃れられない人物の苦境を描いたギリシャ悲劇『オイディプス王』や、何層にも分かれた構造でできた地獄の最深部に堕天使が幽閉された様子が描かれた叙事詩『神曲(地獄篇)』などから、『新世紀エヴァンゲリオン』は、文学的なテーマや要素を意図的に抽出しているのだ。

 「エヴァンゲリオン」の語源となったのは、ラテン語でキリストの教えである“福音書”を意味する「エウアンゲリオン」からきていることは明らかだ。さらにそこには、旧約聖書における人類最初の女性である“イヴ”や、『神曲(地獄篇)』に登場する“欺瞞の罪の象徴”たる、ギリシャ神話由来の怪物“ゲリュオン”など、複数のイメージが重ね合わされているように思われる。エヴァンゲリオンがこれら聖書や文学を基にしているように、またゴジラに新しい解釈がくわえられたように、『シン・ウルトラマン』にも、その存在自体に弥勒菩薩などの仏教を下敷きにした説、あるいは最新の科学理論の採用など、何らかの意味が付与されるのではないかという気がしてならない。

 それは“シン”という名が、与えられたものの本質を新たに暴き出し、“真”の姿を見せるという気概を示す言葉だということが、作品や監督の発言などによって次第に明らかになってきたからである。庵野秀明が監督として作り上げる『シン・エヴァンゲリオン』、そして脚本と制作に関わる『シン・ウルトラマン』が、『シン・ゴジラ』のように決定的な定義を与えることができれば、作品としての内容的成功は約束されたといって良いのではないだろうか。

■小野寺系(k.onodera)
映画評論家。映画仙人を目指し、作品に合わせ様々な角度から深く映画を語る。やくざ映画上映館にひとり置き去りにされた幼少時代を持つ。Twitter映画批評サイト

■公開情報
『シン・ウルトラマン』
2021年全国東宝系にて公開予定
出演:斎藤工、長澤まさみ、西島秀俊、有岡大貴、早見あかり、田中哲司、山本耕史、岩松了、長塚圭史、嶋田久作、益岡徹、山崎一、和田聰宏ほか
製作:円谷プロダクション、東宝、カラー
配給:東宝
製作プロダクション:東宝映画、シネバザール
(c)2021「シン・ウルトラマン」製作委員会 (c)円谷プロ

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