MCU作品のDisney+配信でさらに加速? 多様化するアメコミ映像作品の変遷を追う
この原稿を書くにあたって僕自身の経験から始めさせていただきたいのですが、僕が初めてサンディエゴ・コミコン(アメコミを起点とするポップカルチャーの祭典:以下SDCC)を本格的に取材したのは2010年でした。
映画『アベンジャーズ』の製作発表が行われた記念すべきSDCCだったのですが、その時に印象的だったことが3つありました。とにかく映画の広告が街中に氾濫していたこと。つまり、SDCCは“アメコミのイベント”から“アメコミ映画のイベント”になっていた。そして2つ目はその年の秋から始まる『ウォーキング・デッド』のドラマのPRが派手に行われたこと。3つ目は業界人が登壇するイベントでヒットTVドラマの仕掛人としてJ・J・エイブラムスとジョス・ウェドンのトークイベントが開催されたことです。そして、いまあげた3つのことがこの先どうなっていったかが、まさに<映画からドラマへ 多様化するアメコミ映像作品>を物語っていたのです。
まず2010年のSDCCでは、TVドラマの人の印象が強かったJ・J・エイブラムスとジョス・ウェドンは、後に『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』『アベンジャーズ』の監督を務めます。つまりTVドラマ畑から映画界を動かす人材が生まれ始めたということです。そして『ウォーキング・デッド』は大ヒットドラマとなり、改めてアメコミ原作のドラマが注目されるきっかけとなります。さらにSDCC期間中の屋外広告は、2010年以降映画からTVドラマの広告が主流になってきます。この理由はアメリカのドラマは秋から新シーズンを迎えることが多いので直前の視聴者囲い込みには、夏に開かれるSDCCがタイミング的に良いということが認知され始めたということもあるのでしょうが、ドラマが映画より勢いがある、ということを感じさせてくれます。
そして今年のSDCCはまさにドラマが主役であることをさらに印象付けてくれました。まずマーベル・スタジオのパネル(プレゼンテーション)でマーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)のフェイズ4以降は新配信サービス「ディズニー・プラス」でのドラマも重要な役割であることが強調されました。これまでマーベル・スタジオの、MCUのパネルでは、映画と一緒にドラマが紹介されるということはなかったのです。
またバットマンやスーパーマンを有するDC(映画会社的にはワーナー傘下)は、今年映画の発表は見送ったのですが、『アロー』等のTVドラマや独自の配信サービス<DCユニバース>で届けている『タイタンズ』(日本ではネットフリックスで配信)等のドラマについては多くのパネルが開かれていました。そして今年のSDCCで一番目立っていた屋外広告の一つがアマゾンの『ザ・ボーイズ』だったのです。
「海外ドラマがいままた熱い」「配信サービスの台頭で配信ドラマへの注目が高まる」はアメコミ物に限らず、いまエンタメ業界で言われていることですが、こうした流れはアメコミ文化にも来ていると言えます。アメコミに限って言うと、もともとアメコミ・ヒーロー物というのはTVドラマと相性がいいコンテンツでした。50年代はスーパーマン、60年代はバットマン、70年代はワンダーウーマンのTVドラマが人気を博していたし、マーベルも『超人ハルク』のTVシリーズを成功させています。