斎藤工×窪田正孝の“変化球コンビ”が復活! 『火村英生の推理 2019』従来のバディものとの違い

『火村英生の推理 2019』で描かれる問いかけとは?

 犯罪者の内面を知る火村が、犯罪者を糾弾する側の人間であるという矛盾は、本作の一貫したテーマである。では、殺人衝動という悪魔を火村はどのように抑えつけているのだろうか? その秘密は、高校生連続殺人魔“アポロン”(小野寺晃良)との会話(第9話)で明かされる。「この世に美しい犯罪なんて存在しない。あるのは、醜く、残忍で無価値な犯罪だけだ」。それを証明するために、犯罪の真相を解明するのだと話す。独特の美意識から発する火村のスタンスは、固定化した善悪と正義の観念に揺さぶりをかける。

 危ういバランスの上に立つアンチヒーロー的な主人公に対して、飄々とした雰囲気で火村と行動を共にするアリスは、さしずめ物語世界のガイド役だ。内面に没入する火村が“陰”なら、アリスは“陽”であり、犯罪という閉じたフィールドを「こちら側」の現実に接続する役割を担っている。モノローグ(独白)的な思考の火村にとっては、推理作家で自身の考えを理解する唯一の人間がアリスであり、2人の対話が原動力となって、心理劇を本質とする謎解きのプロセスが進行していく。

 2人をめぐる人々にも注目だ。火村が暮らす下宿の大家・篠宮時絵(夏木マリ)とのやり取りは、ダークな色調に覆われたドラマで、そこだけ陽だまりのような親密さとぬくもりを感じさせる。京都の町並みを意識したセットや小道具、衣装へのこだわりも目を楽しませてくれる。

 欠落を抱えた主人公は、犯罪を憎むことで自身の過去と対決する。もしこの世に「美しい犯罪」が存在するなら、火村は周囲の制止を振り切って罪を犯すだろうか? アガサ・クリスティの古典ミステリーを模した連続殺人犯との駆け引きを描く『臨床犯罪学者 火村英生の推理 2019』には、「なぜ人は犯罪に手を染めるのか」という犯罪捜査の核心を突く問いかけが存在しているのだ。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログtwitter

■放送情報
『臨床犯罪学者 火村英生の推理 2019』
2019年9月29日(日)夜10時30分~ 
配信:地上波放送終了後、Huluにて配信
原作: 有栖川有栖『火村英生』シリーズ(KADOKAWA、講談社、光文社、新潮社、文藝春秋、徳間書店、幻冬舎)
脚本:マギー
脚本協力:佐藤友治
音楽:井筒昭雄
チーフプロデューサー:池田健司
企画プロデュース:戸田一也
プロデューサー:小泉守(トータルメディアコミュニケーション)
演出:長沼誠
制作協力:トータルメディアコミュニケーション
制作:HJホールディングス
製作著作:日本テレビ
(c)日本テレビ
公式Instagram:https://www.instagram.com/himura_ntv/  

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