木竜麻生が語る、『鈴木家の嘘』での大きな経験と女優としての今後 「自分のことをもっと豊かに」

木竜麻生が語る、女優としてのこれから

「もともと女優になりたいと思っていたわけではなかった」

ーー本作は、東京国際映画祭をはじめ、数々の映画賞に輝くなど、各方面で高い評価を獲得しました。木竜さんとしては、この映画の何が評価されたのだと思いますか?

木竜:うーん、どうなんでしょうね。この映画は、確かに監督の実体験をもとにした話ではあるんですけど、けっして監督だけの話ではないというか、この映画を観たときに、みなさん、自分の話だったり、自分の家族の話だっていうふうに感じてくださっているんじゃないかなって思って。知らない場所で起こった他人の話じゃなくて、自分の大切な人だったり好きな人にも、こういうことが起こるかもしれないとか。そうやって、観てくださった方が、自分に寄せて観ることのできる作品なのかなっていうのは思います。

ーーそんな“鈴木家”のなかでも、木竜さん演じる長女“富美”は、わりと平静を装っているようなタイプでしたよね?

木竜:そうですね。でも、実は“富美”がいちばん子どもというか、そうやって平静を装ってないと、自分が保てないのかもしれないですよね。本当はお母さんみたいにとか、お父さんみたいに、思ったまま行動できてしまうほうが、正直なのかもしれないですし。そう、鈴木家のみんなは、最初お兄ちゃんの死を、ちゃんと悲しめないんですよね。岸本加世子さん演じる叔母の“君子”さんが悲しんでいたり、大森南朋さん演じる叔父の“博”さんが敢えて明るく振る舞ったりするんですけど、そのどっちにも振り切れず、ただただそこに留まっているしかないというか。鈴木家の家族は、お兄ちゃんの死を、悲しめてもいないし、受け入れてもいないんですよね。

ーー当事者である家族の人たちは、その現実をなかなか受け入れることができないというか。

木竜:そうなんです。やっぱり、ひとつ屋根の下で暮らしてきた家族には、それぞれが思うお兄ちゃん像っていうのがあるんですよね。父から見る息子、母から見る息子、そして妹から見る兄っていうのがあって、それは本人たちにしか知り得ないんですよね。で、“富美”は“富美”で、お兄ちゃんに対して理想があったと思うし、そういう理想があるからこそ、今のお兄ちゃんは絶対違うって思っていたんだろうなって。そうやって彼女は、心のなかに何枚も壁みたいなものを作っていて……それが一枚一枚はがれて、ちゃんと悲しんだり、ちゃんと怒ることができるようになるっていう。それはホントに、何かちょっとしたことだと思うんですよね。そこから一歩も二歩も大きく踏み出したわけじゃなくて、気持ちがちょっとだけそっちに向けられたっていう。そのくらいのことだけど、そのぐらいでいいんじゃないかなって思うというか。

ーーそうやって、ちゃんと悲しむことや、ちゃんと怒ることの難しさを、この映画は描いていて……しかもそれを、人間の滑稽さやおかしみと共に描いているところが、この映画の良さですよね。

木竜:そうですね。彼らが真剣だったり真面目であればあるほど滑稽というか、ちょっと面白くなってきちゃうんですよね(笑)。お父さんが真剣にソープランドに通えば通うほどおかしみが出てくるし、“富美”が一生懸命手紙を書けば書くほど、「この家族、おかしいな」って思えてくるというか。

ーーそもそも、最初に“嘘”を言い出したのは“富美”ですしね(笑)。

木竜:そうなんですよね(笑)。お父さんが本当のことを打ち明けようとしているのに、突然変なことを言い出したっていう。そういう家族のおかしみというか、ただ暗くて重くて苦しいのではなく、何かちょっとおかしいよね、カッコ悪いよね……でも、頑張っているお父さん、ちょっとカッコいいよねとか、そういうところがあるのが、この映画のいいところなのかなって思います。

ーー結構重めの話ではありますが、観たあとには、ちょっとだけ心が軽くなっているような。

木竜:うん、そうですね。何かそういうふうに、面白いなとか、笑えるなって思えるところは笑ってもらって……ただ、そこから何か持って返るものがあったら、持って返ってほしいなって思っていて。何か映画って、そういうのがいいなって思うんです。現実をただ「こうですよね」って突きつけるのではなく、ちょっとだけいいことありそうとか、ちょっとだけ光が見えそうって思えるような。そういう映画のほうが、私は「何かいいな」って思うんですよね。

ーー本作の出演後も、NHK大河ドラマ『いだてん』に水泳女子日本代表選手・松澤初穂役で出演するなど活躍目覚ましい木竜さんですが、そもそも木竜さんは、なぜ女優になろうと思ったのですか?

木竜:ああ……もともと女優になりたいと思っていたわけではなく、ホント徐々にというか、きっと何段階かあったと思っていて。そもそも小さい頃から、人前で何かをやるとか、そういうアグレッシブなものは、あまりない子だったんですよね。だけど、中学の頃に今の事務所の方に声を掛けていただいて……ただ、中高は地元の新潟で進学するつもりでいたので、ちょっと待っていただく形というか、「大学進学のときに、本人が興味があったり、やってみたいというのがあるなら、お任せします」っていうことを、私が14歳ぐらいのときに、父が事務所の方に言ってくれたんです。で、私自身は、大学で東京に出たら、そういうことをやるのかなあみたいなことを、ボンヤリした感じで思っていて。だから、そのへんのことは、事務所の方も、あまり焦らずというか……。

ーーわりと長い目で見てくれたんですね。

木竜:そうなんです。事務所の方はホントに「楽しくやってほしい」って、いつも言ってくださるような方で、「ちょっと興味があるなら、ちょっと興味があるっていうその状態で始めてみようよ」っていうスタンスでいてくれたんですよね。で、その後、東京の大学に進学して、CMとかMVのお仕事をさせていただいたり、ちょっとだけ映画に出させてもらったりしていたんですけど、最初はやっぱり、何よりも家族が喜んでくれるのが嬉しかったんですよね。「ああ、こんなに喜んでもらえるんだ」って思って。

ーーということは、その後、またどこかで転機みたいなものがあったんですか?

木竜:それこそやっぱり、就職活動の時期ですよね。まわりの友だちとかがエントリーシートを書いたり、リクルートスーツを着たり、セミナーに行ったりしているのを見て……これは私にはできないというか、私はちょっと頑張れないなって思ってしまったんです。で、ちょうどそのタイミングに『菊とギロチン』のオーディションがあって、「もう私は就職活動はしない」ってことを自分のなかで決めて、それを親に伝えたら、父も母もそれを良しとしてくれて、「じゃあ頑張ってみたら」と言ってくれたので……そこでまたひとつ、覚悟を決めたというか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる