ドラマのトレンドは「医療」×「刑事」の複合技? “命”や“人生”を深掘りする作品の厚み

ドラマのトレンドは医療×刑事の複合技

 実際、複合技ドラマにおいては、医療関係者たちが死因を推理する過程や、病気を発見するまでを描く作品が多い。そんな流れの中、今クールの『監察医 朝顔』と『サイン―法医学者 柚木貴志の事件―』を観てみると、「複合技」ゆえの魅力が発見される。

 『監察医 朝顔』は、上野樹里演じる法医学者の娘と時任三郎演じる刑事の父がタッグを組み、事件の真相に迫っていく中で、死者の人生を描く「法医学」ドラマとなっている。しかし、その一方で、震災で妻あるいは母を失った心の傷を共有する父娘の「家族再生」のホームドラマとして丁寧に繊細に描かれていることが、視聴者の心をつかんでいる大きな理由だろう。

『監察医 朝顔』(c)フジテレビ

 また、韓国の大ヒット法医学ドラマをリメイクした『サイン』の場合は、大森南朋演じる偏屈で無頼な主人公が権力に闇に立ち向かう「骨太サスペンス」だ。しかし、法医学の大森南朋と飯豊まりえ、キャリア警察官の松雪泰子と高杉真宙という2組の「バディモノ」としての楽しみ方もある。複合技にすることで、物語が多層構造になり、立体的になるわけだ。

 思えば、医療も、刑事も、古くから現在に至るまで男性中心の世界であり、ドラマに多く描かれてきたのは「群像劇」であっても「男性大勢+紅一点」の構図が多かった。それが医療と刑事という別の世界を同時に描くことにより、女性視点を与えられることも、作品に深みを与えるメリットかもしれない。

 さらに、『アンナチュラル』以降の流れで、複合技のほうが多角的な視点を盛り込めることから、「事件」を追うスリルや推理の楽しみだけでなく、「命」や「人生」を深掘りすることもできるようになってきた。

 安定コンテンツを使いつつも、どんどんニッチ化する一方に見える「医療モノ」「刑事モノ」だが、その中身の深まり方・広がり方を思うと、意味のある複合技は意外にも多そうな気がする。

■田幸和歌子
出版社、広告制作会社を経てフリーランスのライターに。主な著書に『KinKiKids おわりなき道』『Hey!Say!JUMP 9つのトビラが開くとき』(ともにアールズ出版)、『大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた』(太田出版)などがある。

■放送情報
『監察医 朝顔』
フジテレビ系にて、毎週(月)21:00〜放送
出演:上野樹里、時任三郎、風間俊介、志田未来、中尾明慶、森本慎太郎(SixTONES/ジャニーズJr.)、坂ノ上茜、喜多乃 愛、宮本茉由、戸次重幸、平岩紙、三宅弘城、板尾創路、柄本明ほか
原作:香川まさひと
漫画:木村直巳
監修:佐藤喜宣『監察医 朝顔』(実業之日本社)
脚本:根本ノンジ
法医学監修:上村公一(東京医科歯科大学)
プロデュース:金城綾香
演出:平野眞、澤田鎌作
制作:フジテレビ
(c)フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/asagao/

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