松江哲明の“いま語りたい”一本 第40回

芦田愛菜が担うナビゲーターの重要性 観客を未知の世界へと誘う『海獣の子供』の挑戦

 夏休みに向けて公開されるアニメーション映画は、その年を代表するような勝負作が並びます。かつてはスタジオジブリをはじめとして、興行収入100億円越えを狙ってくるような作品が集まっていました。今年は偶然かもしれませんが“水”を題材にした魅力的な作品が並びました。夏を意識したのか、『天気の子』も予告編で雨が印象的に使われていますし、『きみと、波にのれたら』も海を舞台にした作品です。アニメーションで様々な水の表現を見比べることができることになりました。

 そういった視点で観ると、『海獣の子供』の水の表現は、海や水そのものをリアルに描写するのではなく、描き手の心を通して表現されているなと感じました。それがとてもSTUDIO 4℃らしいと言いますか、代表作『鉄コン筋クリート』のように、独特のアングルで魅せてくれます。松本大洋さんや五十嵐大介さんの漫画の止まった絵だからこそ成立している美しいものを、動いていても成立させる描写力がありました。

 まず私が驚いたのは、琉花が職員室で先生と話をするシーンです。この場面では、画面に埃を映しているんです。太陽の光が入ってくる加減と扇風機を回すことで、琉花の髪が揺れ、それだけでなく埃が空中に舞っています。その人間と道具以外の、そこにあるもの全ての動きが琉花の感情を表現していました。この映画のテーマのひとつである「生命」を、人間や動物、魚などだけではなく、映るものすべてにエネルギーが宿るように描いています。

 上映時間は111分ですが体感時間としては、90分弱のような、または120分を超えているかのようでした。例えば、プールや海に行って泳いでいたら、すぐに1時間の休憩の笛の音が聞こえたり、あっという間に陽が落ちて肌寒くなったりと、時計が刻む時間ではなく、水の温度や太陽の高さと共に感じる時間があると思うんです。この映画でも、多くのシーンが水の中が舞台となっているせいか、地上から見ているのとは違う時間の流れがあります。

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