長尾謙杜が自然に見せる「変化」のグラデーション 『俺スカ』若林役での抜きん出た演技力

 クラスの中で孤立していた若林が、マスクを外すことでクラスの仲間に入れたところで、若林メイン回は終了したかに見えた。しかし、ここで物語は終わらない。スクールカーストにおいて、いわゆる「三軍」にいた若林が自分の殻を破ったところで、突然「一軍」になるわけではない。クラスメートたちは案外すんなり受け入れるし、イジメていた側ですら、それを忘れたように接していく。

 しかし、イジめられていた側の心の傷は、マスクを外したことで何もなかったように癒えるわけじゃない。そこにリアリティがあるのだと思う。だからこそ、クラスメートが若林に対してフラットに接するようになった後も、若林の周りの見えない壁は、やっぱり残っているように見えた。

 それが明らかにわかるのは、若林が信頼する教師・のぶおと会話するときと、クラスメートと会話するときのテンポが異なっていること。のぶおに対しては、やや食い気味なほどにスピーディーに喋るのに、クラスメートと話すときは、ちょっと言葉を選んで、ゆっくりのスピードになる。

 ましてイジメていた側と喋るときには、微妙に声が詰まったり、掠れたりした後、ちょっと大きめの声を出す。普通に接しようとしても、イジメられていた記憶があるから、無意識のうちに緊張感でこわばってしまうのだろう。そして、それを悟られまいと、勇気を出すように大きな声で返答しているように見えるのだ。

 しかも、若林の喋るテンポや音量の違い、醸し出す距離感の違いは、大きな集団に向けてのものでなく、対する個人個人で異なっており、さらにドラマが進むうえで変化していく。

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