小説の衝撃をドラマに昇華 『腐女子、うっかりゲイに告る。』が描いた世界を単純化しないこと

『腐女子~』が描いた世界を単純化しないこと

 その構図をよりいっそう浮き立たせるために、本作はドラマならではの、あるアレンジを用意していた。それが端的に表れ始めたのは、思いつめた純が教室から飛び降り自殺を図るという衝撃的な第5回「Bohemian Rhapsody」の最後を受けて始まった、第6回「Somebady to Love」だった。この回は、その多くの場面が三浦さんの目線で描かれた、すなわち純の一人称では描き得ない、ドラマオリジナルの回となっていたのだ。

 命に別状はないものの、大怪我をして入院を余儀なくされた純。一方、三浦さんは、純のいない教室を覆った暗い空気を感じ取り、純が飛び降りたバルコニーで嘆息する小野を目撃する。そして、心そこにあらぬまま、腐女子仲間である姐さんに呼び出された三浦さんは、彼女に「もっと自分をさらけ出して、お互いを知ってみたら?」とアドバイスされるのだった。さらに後日、今度は純の親友である亮平に声を掛けた三浦さんは、彼に純との思い出の場所を案内してもらいながら、自分が純のことを何もわかっていなかったことに気づくのだった。そして、このような状況になってもまだ、純のことを「わかりたい」と思っている自分の本心にも。

 かくして、亮平と連れ立って、純の見舞いにいくことを決意した三浦さんは、彼を終業式に誘い出すことに成功し……このドラマのまさしくクライマックスと言っていいだろう、第7回「We Will Rock You」(ちなみに、この回だけ、ドラマオリジナルのタイトルがつけられていた)で繰り広げられた、体育館での怒濤の「告白」シーンへと繋がっていくのだった。そう、こうして純の一人称で綴られていた物語は、いつしか「個人対個人」の関係性が連鎖する、10代の若者たちの「群像劇」として、視聴者の前に立ち上がってきたのだった。作り手側が惚れ込んだ小説のエッセンスを、細心の注意をもってていねいに取り扱いながら、その要所要所においては、ドラマならではの表現で大胆に描き切ってみせること。このドラマに、あくまでも小説とは別の表現でありながら、その小説から受けた衝撃はそのままに、ドラマならではやり方で描き出そうとする、役者も含めた作り手たちの矜持を感じたのは、きっと筆者だけではないはずだ。本当に心に残る、良いドラマだったと思います。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

■放送情報
よるドラ『腐女子、うっかりゲイに告(コク)る。』
NHK総合
※再放送:総合 6月15日(土)午前0時40分から1時9分(金曜深夜)
原作:浅原ナオト「彼女が好きなものはホモであって僕ではない」
脚本:三浦直之
出演:金子大地、藤野涼子、小越勇輝、安藤玉恵、谷原章介 ほか 
演出:盆子原誠、大嶋慧介、上田明子、野田雄介
プロデューサー:尾崎裕和
制作統括:篠原圭、清水拓哉
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/drama/yoru/fujoshi/

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